ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□薔薇十字館殺人事件-前編-
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美雪や金田一と寄り道をした帰り道、紫苑は夕暮れ時の公園内を歩いていた。
人が少なくなってきてはいるものの、公園にはまだ賑わいが残っていた。
近道になるからという理由で公園内を突っ切っていた紫苑はベンチに座っている女の人に視線がいった。
その女の人はうつむいて顔色が悪く、震えているようだった。
周りを見ても連れがいるようには見えず、心配になって声をかけてみることにする。
「あの……」
「っ!はい」
「えっと、顔色が良くないみたいですけど大丈夫ですか?」
急に声をかけたからか、女の人はビクついた。
急に見知らぬ人が声をかけてきたからゆえの反応と思われるそれに少し申し訳なく思いながら問うと、小さすぎる声で大丈夫だと言われる。
どう見ても大丈夫ではない様子に紫苑はどうしたものかと考える。
ふと、カバンの中に未開封の水のペットボトルがあることを思い出して、それを女の人に手渡した。
「よかったらこれ、どうぞ」
「そんな…」
「いいですから。そんな顔をした人をそのままにはしておきたいと思いませんし」
「………ありがとうございます」
紫苑自身なぜこんなにも目の前の女の人を気にかけてしまうのか内心疑問にも思った。
でも、このまま置いていてはいけないと、どこかで確信めいたものがあった。
(とは言ってもな……どうしたらいいんだろ)
「この何も入っていない帽子にこの白いハンカチを入れると……3,2,1!」
「わあ!」
「!?……」
聞こえてきた聞き覚えのある声に紫苑は反射的に振り返る。
そこには子どもたちに囲まれてマジックを披露する、ピエロのお面をかぶった男がいた。
それが誰なのか、顔を見なくても紫苑には分かった。
(なんでこんな時間のこんなところに高遠さんがいるのよ……)
つい頭を抱えそうになるのをぐっと耐える。
さすがに一般人の前で突然通報しだすわけにもいかないと思った紫苑は、ベンチに座っている女の人の様子を見る。
先ほどよりは顔色が良くなっていることを確認して紫苑はホッとする。
このまま置いていくのは気が引けるが、紫苑は女の人に一言かけてからその場を立ち去ることにした。