ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□やくそく
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暗い
重い
意識が浮上してきているのは自覚しているが、瞼は重く持ち上げるのが億劫で、身体は意識に追い付いていないかのようにピクリと動かすこともできなかった。
遠いところで誰かが何か言っている気がするが、紫苑にとってはそれさえもどうでもいい気さえした。
(……さっきまで何してたんだっけ…?)
ふとそう思ったのと、頭から冷水を浴びて強制的に覚醒させられるのとは同時だった。
「!?」
「やーっと起きた」
〈雪峰さん!!〉
〈紫苑!〉
電話越しの声質の聞き覚えのある声の様子から何が起こっているのかを本調子でない頭で考えている紫苑を、見たことのある男が覗き込む。
その男の顔を見た瞬間、紫苑はすべてを思い出し、慌てて身を引こうとしてそれができなかった。
紫苑は椅子に座らされていた。
お世辞にも座り心地がいいとは言えないその椅子の背もたれの後ろで紫苑の両腕は拘束され、両足は椅子の足にきつく縛り付けられていた。
「っつう……!」
「ははっ!元気じゃん!いやぁークスリ強すぎてもう起きないのかと思ったぜ!」
「くすり……」
〈紫苑、紫苑!〉
「…お、父さん…?」
先ほどから自分の名前を呼ぶ声の方向に視線を向ける。
そこには声の主である修司をはじめとして、明智と剣持が小さなモニターに映っていた。
そのモニターの上にはこちら側に向いたカメラが置かれており、どうやらテレビ電話をしているらしいと紫苑は推測した。
〈雪峰さん、大丈夫ですか?〉
「えっと…大丈夫、です。まあ、状況的にこれを大丈夫って言っていいのかわかりませんが……」
明智の問いに紫苑は自分にわかる程度に応える。
それに少し安心したのか向こうにいるみんなの顔から安堵がほんのわずかに見え隠れした。
誘拐されたらしいこと以外、何も把握できていない紫苑はその様子からかなり良くない状況なのかもしれないと不安になった。