桃色の愛

□幸か不幸か
2ページ/3ページ





会場内は大層広かった。客席は金持ちの貴族でぎっしり。
ステージは煌々とスポットライトで照らされて、次々に商品にされた人達が競り落とされていく。

年若い娘、子供、元海賊、剣士、巨人…。

みんな人間なのに、同じ人間に買われていく。
なんて虚しいんだろう。



「続きましてこちら!うら若くも美しい踊り子フィオーネ!この娘の踊りは一国の王をも魅了したと言います!さァ!この踊り子、100万ベリーから!開始です!」



ステージに立つ司会の男がマイクを片手に大声で言い放つ。
立たされた踊り子の子が震えながら、真っ赤に腫れた目元をずっと足元に向けていた。



「110!」

「120!」

「125!」

「130!」



客席から次々と声が上がる。楽しそうな声が。同じ人間とは思えない。



「父上、あの娘結構可愛いえ。買ってもいいかえ?」

「うん?あァ好きにするといいえ。だがお前にはもう20人は奴隷の娘がいるが…」

「奴隷は何人いても一緒だえー!」

「お兄様は本当にお心が広いあます」



がやがやと騒がしい会場なのに、なぜか特別すごく独特な喋り方をする一行の存在に気付いた。
変な格好で変な喋り方で変な髪型で変な趣味、うん、最悪だ。



「じゃあ、500万ベリーだえ〜!」

「おお!出ました高額!500です!さァそれを上回る方はいらっしゃいますか!?」

「居るわけないえ」

「いません!では!この娘は500万ベリーで気高き天竜人様の元へ!!お買い上げー!」



天竜人、あれが。うん、やっぱり趣味が悪い。色々と。

ふと踊り子さんに視線を投げる。彼女の表情からは絶望の色しか見えなかった。



「…では、皆様。どうぞ一度深呼吸をして下さい」



突然、司会者が声を潜めるようにそう言った。
その様子に客席はまた違ったざわつきを見せる。



「本日の目玉商品…かなりの大物でございます!」



腕を広々と広げ、司会者の合図でステージのスポットライトの色が変わった。
おまけにミラーボールらしき物まで回り出す。


(できれば普通に見てみたかったな、勉強した意味がない)


一度幕が降り、私は移し替えられた鳥籠ごとステージの真ん中へ送り出された。
ただ黙って俯いていると、さっき私を運んだ人攫い屋の男が何やら手に持ったリモコンのスイッチを押す。



――――バチッ…バチィ!!



「――ッ!!」



鳥籠の格子からいきなり放たれた電流が私の全身を襲った。
体の芯までその衝撃は響き渡り、思わず隠していたモノが現れる。



(ッしま…)

「それでは皆様お目にかかりましょう!本日の目玉商品――空ノ庭出身・天源族のシアー!!」



バッ!と開かれた幕の向こうから眩しい明かりが目に刺さった。
と、同時に浴びせかけられる歓声と視線。

痛む身体を叱咤して、ゆっくりと背中を振り向いた。
隠していたのは、天源族がみんなその身に隠し持っている翼…属性翼(ぞくせいよく)。


私は水の声を聴き、語る水の語りべ。
それ故に翼の色は透き通った淡い水色、水が流れるように羽先へ向かう模様は、時折周りのものを映す鏡のように煌めく。



「おおおおお!天源族とは!」

「なんと美しい!」

「人魚よりも珍しい商品じゃないか!」



客席が泡立つ。正直今までステージで競り落とされていった人達の時より断然盛り上がりが違う。
正直嬉しくない。嬉しく思う人もいないか。



「では!参ります!1千万ベリーから!」



高いのか安いのかわからないけどさっきの踊り子さんの値段とは大違い。
手出す人いるのかな。



「1100!」

「1200!」


いたー。普通にいた。痛いなーこの人達。






次々に声が上がり、どんどん高くなっていく額に、私は興味もなくため息を零した。
司会者が熱烈に会場を盛り上げていくのに従って、客席の雰囲気も上がっていく。

そんな空気をある一声が邪魔をした。








「5億!」









しん……。

会場が一瞬で静まり返った。そりゃあ、そうなるわ!何だ5億って!億って!




びっくりして5億と叫んだ客を見上げると、立ち上がって片手で「5」と表示するように指をしならせるさっきの天竜人が目に入った。


あー、なんだアイツか。




「ご、5億!?」

「なんだえ?何か問題でもあるのかえ?」

「い、いいえ!滅相もない!5億ベリー!とてつもない高額です!」

「無理だ、勝てるわけがない」

「億なんて出せるのは天竜人くらいだ」

「5億!それ以上と言う方はいませんか!いませんね!ええいません!」

「当たり前だえ」



揚々と腰かけ直した天竜人が視線を私に投げてくる。
そうか、私はあの男に買われるんだ。さっきの踊り子さんと一緒に。

世界で一番偉い天竜人に、一生仕える。人生の終わりが見えた気がした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ