桃色の愛

□迫り寄る彼
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※裏注意!





……私は今、目の前で艶めかしく微笑む一人の男と対峙している。


なぜかベットの上で。枕元に追い詰められた状態で。



体の自由が利かないこの状況を何とか打破しようと、思考をフル回転させてはいるが…




「そう身構えるな、楽にしろ」




いや、無理でしょ!?
アンタなに簡単に言ってくれてんですか!キャラ崩壊していく自分が恥ずかしいわ!




「フッフッフッフッフ!良い夜になりそうだなァ?」



それはアンタだけですから!!

























 ☆











上記のやり取りに至るまでに起きた事を記します。

私は若様に連れられて彼の書斎へやってきました。
デスクではなくその手前に設置されているソファーに降ろされ、ただじっと身を小さくしていました。




「(付き合えって、ホントに何に?もしかしてお酒の相手、じゃないよね?)」







なんて一人で試行錯誤していると、若様は側にあったワゴンに向き直って何か用意し始めた。
お手伝いした方がいいのかと思って立とうとしたけど既に遅く、若様はブランデーの入ったグラスを手にして私を振り返る。



「まさか、お酒の相手を…?」

「ん?あァ、そうだが。酒を飲むのは俺だ、お前には…」



ブランデーを持った手とは別の手に持ったシャンパン用のグラスを私に手渡し、ニヤリと笑う。



「安心しろ、度は入ってない」

「は、はァ…」

「今日の晩餐は楽しかったか?」



私の隣に腰を下ろして、若様が優雅にブランデーを呷る。
その姿に自然と見惚れてしまい、返事を返せずにいると、不審に思ったのか若様がズイっと顔を近づけてきた。



「!」

「どうした」

「いえ!すみません…。あんなに大勢で食事をしたのは久しぶりで、すごく楽しかったです」

「フフッ、そうか、ならいい。これからは毎日騒がしい食事になるぞ」

「それも楽しみにできますね」



遠慮がちにだがグラスに口をつけ、中の飲み物を喉に流す。
甘くてシュワシュワした舌触りが口いっぱいに広がった。飲みやすい味ですごく美味しい。



「シア、お前の能力はどんな時に使うものなんだ?」

「え?」

「お前を戦闘に出す算段はまだ考案中だが、実際起こりえないとも限らない話だからなァ。知っておかなきゃ作戦パターンも考えられねェ」

「作戦…。私の力は諜報に長けていると言われた事はあります。水がある場所ならどこでも“彼ら”の声が聴ける。そしてその場では“彼ら”の力を借りて闘う事も、一応できます」

「水を利用して闘うってのか?」

「水も人間には時に災厄を呼ぶ事だってあるでしょう?津波や洪水、豪雨、色々あります」

「自然災害を意図的に起こせるってのか?そいつは恐ろしいなァ、フッフッフ!」

「簡単に言えばそうなりますね」



もっとも解りやすくて簡単な理解の仕方をしてくれた若様に微笑んで、私はもう一度グラスに口をつける。

本当は、この力は争い事だけに使いたくはないんだけど、この人に仕えるという事はそういう事なんだと理解した。

私はいつか、この手を血に染める。一族の仇を執ると決めたのだから、それくらい造作もない。




「(…もしかして、コラソンさんが言ってた“染まるな”ってこう言う事?)」

「なるほど、そいつは使い用に寄れば取引の時にも役に立つなァ」

「お役に立てますか?」

「程度の問題は自分自身の力量に懸かってる。まァせいぜい励め」



そう言い切って、グラスに残ったブランデーをいっきに飲み干しワゴンへグラスを戻すと、若様の腕がソファーの背もたれ越しに私の肩へ回った。



「…お前、歳は確かに15なんだよな?」

「え?」

「歳のわりには少々落ち着きすぎやしないか?」

「そうですか?あ、でも確か私は16歳です。若様に助けて頂いた日が誕生日でしたので」

「…それは本当か?」

「?はい、本当で…ッ!」



振り返ったと同時に、肩に回されていた大きな手が私の後頭部をがっしりと掴み、そのまま若様の方へと引き寄せられる。

素早すぎて何が起こったのかわからなかったけど、重なった唇から伝わるぬくもりが徐々にこの状況を教えてくれた。



「!!?」



触れるだけのキスを、若様から贈られた。
ゆっくりと離れた唇を吊り上げて、若様が嬉しそうに私を見る。

その笑みに何故かゾッとした。



「そうか、なら問題ないなァ?」

「な、何がですか…?」

「フフフッ、フッフッフッフッフッ!」



突然高らかに笑い出したかと思うと、若様は私の手からグラスを奪い取り、固まったままの私を軽々と抱え上げて立ち上がる。

それにもびっくりして(今日何回目!?)若様を凝視すれば、またあのニヒルな笑みを返された。












私のあらゆる問いかけを無視して、そのまま連れて行かれたのは書斎の隣にあった寝室。
薄暗い照明がムードを醸し出す大人の空間に、造りの良い大きなベットがど真ん中に設置されていて、それを見た私の懐中に広がった嫌な予感はどんどん膨らんでいくけど、そんな私には構いなく若様はボンッ!とふかふかなベットの上に私を放り投げた。



「ぶ!」



顔面から沈んでしまったけどすぐに起き上がり、私を投げた張本人を振り返る。

けれど彼は愛用のコートは脱ぎ去って傍らにあったソファーへそれを放り、ギシリ…とベットへ片膝をかけて私を見下ろす。至極楽しそうに、だ。



「若、様…。一体、何を…お考えですか?」



震える声と引きつる顔でそう問えば、若様は喉の奥で笑い声を殺しつつ、意気揚々とこう言った。




「“16歳”なら、既成事実が出来ても問題ないよなァ??」


「――問題大有りです!!!」







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