桃色の愛
□船長の弟
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ドンキホーテ海賊団に加入してから数日が経った。
この前船長が言っていた通り、ここでは闇取引が主な仕事でグラディウスさんやジョーラさん、ベビー5までがその取引の現場に足を運ぶという。
頭である船長が自ら出向く時はほとんどなく、私は運が良かったんだと後で教えられた。
そして、肝心の私の役割だけど。
「お世話役…?」
「お前は常に若様の傍で身の回りの手伝いをするのが仕事だ。仕事であったり、日常であったり様々だが、ただ使用人のように働けと言っているわけじゃない。お前はもうこのファミリーの一船員(クルー)だ、自ずと自分の役割の内容もどう動いていけばいいのかもわかってくるだろう」
グラディウスさんが、今度の取引で使用する銃の手入れをしながら説明をしてくれる。
つまりは経験して覚えろって事。実戦経験は?と聞かれて答えにくいけど有ると答えたら少し驚かれた。
空島と言えども平和な場所とは限らないから。
「訓練は受けろ。これは若様からの命令だ」
「はい」
「俺の砲術、ディアマンテの剣術、そして地上の事を知る為の勉強もな。ラオGの体術は要らんそうだ」
ラオGが心底残念そうにしていたと呟きながら、グラディウスさんは手入れの終わった銃を一つ私に手渡した。
少し小ぶりで軽い単発式の銃だ。
「それをやる。訓練用には別のを用意してある、護身用にでもしておけ」
「ありがとうございます!」
「あァ。そういえばウチの船員にはもう会ったのか?」
「この船に来た日の次の日に紹介されました。でも一人だけその日に居なかった人がいて、今日紹介してくれるみたいです」
「…コラソンか、気を付けろアイツは子供が嫌いだからな」
“コラソン”確かにそういう名前だった気がする。
船長の実の弟って聞いてるけど、あの人の弟って想像できる限り恐そうだ。
一人でそんな事を考えていると、部屋の片隅にあった扉がおもむろに開いて、外からディアマンテさんが入ってきた。
「おー居た居た。シア〜ドフィが呼んでるぜェ」
「若様が?」
船員になったからにはそう呼べとグラディウスさんから言われたので、ドフラミンゴさんの事を呼ぶ時は気を付けるようにしている。
「あァ、コラソンが帰ってきたみてェだ」
噂をすれば何とやらというやつか、部屋を出ていくディアマンテさんの後に続いて私も部屋を出た。
☆
数日前船で運ばれたのはドンキホーテ海賊団のアジト。
皆が呼ぶ鉄の山の上に建ったアジトは結構大きい、船もそうだけどやっぱり何でも見栄えがいい。
大きいと言えば、この人達も何でこんなに背が高いのか。
「来たな、こっちだシア」
呼ばれて視線を向ければ、広い談話室に拵えられた大き目のソファーにどっかりと腰を下ろしている若様がいた。
そのソファーとL字の位置に設けられたソファーには、若様のように目立つ羽のコートを羽織った男の人が下向き加減で黙って座っている。コートの色は違うけどお揃いって、仲いいんだ、兄弟だからかな。
「傍に来い」
言われてスタスタと若様の近くまで歩み寄ると、大きな手が私の頭の上にポンっと置かれた。
「コラソン、コイツが話していた新人のシアだ。歳はまだ15だからまだまだガキだが、あまり虐めてやるなよ?」
「……」
この人が噂のコラソンさんか。
黙って私を見る目が怖い。なんか、少し憐みを含んでいるようで…。
「シア、コイツは俺の実の弟のコラソンだ。過去に色々あって口が利けない、人付き合いも苦手だが、まァ仲良くな」
「はい、若様」
素直に頷いて、私はコラソンさんに向き直り、頭を下げた。
「シアです、よろしくお願いします!」
「!」
頭を上げれば、なぜか少し驚いている様子のコラソンさんが目に入った。
首を傾げていると、懐からメモ帳を取り出して何かを書き始める。
そして静かに手渡されたメモ用紙を読んでみると「よろしく」とそう一言書いてあった。
思いの他字がキレイではない。あ、言っちゃダメか。
「フッフッフ!これは珍しい事もあるもんだ、コラソンが自分から挨拶するとはな!」
「今日は嵐でも来るんじゃねェか〜?ウハハハ!」
若様とディアマンテさんが楽しそうに笑っている中、コラソンさんはまただんまりを決め込んでいる。
でも、この挨拶がそんなに珍しい事なら、私はちょっと貴重な体験をしたって事になるよね?
「さァて飯の時間だ、今日は全員揃ってるからなァ!豪勢にいこう!」
「ウハハハハ!いいねェ!酒も美味いってモンだァ!コラソン!お前もしっかり食えよォ?」
立ち上がった二人に続いてコラソンさんも席を立つ。
夕食の時間はファミリーの幹部の面々全員が集まって大勢で過ごすってジョーラさんから聞いたっけ。
私はまだベビー5とバッファローとしか食べた事がない。なんか緊張するッ。
食卓の間へ向かう三人の後をゆっくり付いて歩いていると、突然コラソンさんが私を振り返った。
「?」
何ですか?と聞く前に、少し乱暴にわしゃわしゃと頭を掻き回される。
びっくりして立ち往生している私を放って、コラソンさんはずんずんと先を行ってしまった。
あの人本当に子供嫌いなの??
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