桃色の愛

□幸か不幸かU
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ヒューマンショップから彼らに連れられて来たのは、港と言う場所に停めてあった一隻の海賊船だった。

空島にまだ住んでいた時に地上から来た海賊船は何度か見たことがある。
でもこの海賊船はすごく大きくて、首を目一杯上げて見上げていたら上から声が降ってきた。



「そんなに物珍しいか?」



未だ私を抱えた状態でいるドフラミンゴさんの声に、跳ねるように反応してしまった私はただ必死に首を縦に振った。
そんな私の様子が面白かったのかは知らないが、彼は喉の奥で笑いながら用意された船への階段をゆっくりと上がっていく。


降り立った広い甲板にはこの船の船員らしき人が数名いて、出航の準備に取り掛かっているようだった。



「お帰りなさいませざます、若様」

「取引の方はいかがでしたかな、若」

「良好、何も問題ない。収穫もあったかしなァ」



出航準備の手を止めてドフラミンゴさんに近づいてきた二人の男女。
ドフラミンゴさんに対して「若様」と呼んでいるって事は、それがこの船でのこの人の敬称なのだろうか。



「あらま!可愛らしいお嬢さんですこと!」

「この娘は噂に聞く“天源族”だ。ドフィが奮発して手に入れた」

「天竜人に威勢よく立ち向かう姿は素晴らしかった」

「おいおいよせグラディウス、俺は俺の判断でやっただけだ。フッフッフ!」



いや、でも確かに“あの”天竜人にあれだけ物を言える人間はいないと思う。
息子の方はともかくとして父親らしき天竜人が罰が悪そうな顔をして自ら身を引かせたのは本当に珍しい。
天地がひっくり返ってもあり得ないんじゃないかな。



「天竜人まで居たざますか!」

「そりゃ居るじゃろうて、貴奴らの大好きな“人間屋”が今回の取引先じゃったのだぞ?」

「おかげで良いモノが手に入ったんだ、結果オーライさ。なァ、ドフィ」

「フッフッフッフッフ!あァそうさ、とにかくコイツの身なりを何とかしねェと話にならねェ。ジョーラ」

「お任せ下さい若様、可愛ーくおめかししましょうね〜♪」




甲板へ下ろされた私に近づいてきた女性が満面の笑みで私の手をとる。
すごくスタイリッシュで綺麗な……奥方みたいな人だなァ。この間は気にしないで。

そういえば攫い屋に捕まってから結構抵抗したり暴れたりして、身に着けている衣類はどれもボロボロだ。
傷付けないように扱われてはいたけど、体のあちこちに擦り傷がある。



「お風呂にも入るざますよ〜?ベビー5!手伝ってちょーだい!」



手を引きながらジョーラさんが連れて来てくれたバスルームはだだっ広く、思わずあんぐりと口が開いた。
大浴場と言ってもいいくらい広い。よく見るとサウナまである、え、ここ海賊船の中ですよね?



「見る物全て珍しいざますか?それにしてはあまり驚いてないざますけど」

「いえ、驚いてます!でも、降りた事はないけど本を読んで勉強していたので、何となくわかります」

「そうざますか!勉強熱心で良い事ざます!」

「ジョーラ〜呼んだー?」

「来たざます。あーたより歳は下ざますけど、この船では先輩ざますわよ」



バスルームもとい大浴場の入口から姿を見せたのは、確かに私よりも小さな女の子だった。
身につけている衣服が使用人用ミニサイズみたいでなんだか可愛い、ひとつに結わい上げられたポニーテールには大きなリボンが結ばれている。



「今日からこの船の一員になった子ざます。えーと、お名前は?」

「シアです」

「お名前も可愛らしいこと、あたくしはジョーラ。この子はベビー5ざます」

「よろしくね!シア!」

「よろしく(可愛い)」

「仲良くするざますよ?この船ではあたくし達しか女がいないざますからね〜」

「ね!お風呂入るの??私も入りたい!」

「じゃあ皆で入るざますよ、オホホホホホ!」















  ☆













浴室であんなにはしゃぎながら入浴した事なんて今までなかった。楽しかったせいもあって、おかげで少しのぼせ気味。
まだ時間帯はお昼頃みたいで、私はジョーラさんが用意してくれた洋服に着替えて、今は別の船員の後ろを付いて歩いてる。

黙って歩き続ける男の人は、上下とも真っ黒な服、髪型はオールバックで少しいかつい感じ。
目元にはゴーグル、口元にはマスク、表情というか顔が全くわからない。そして説明し辛い、何この人。



「今、心の中でおれに文句を言ったか?」

「!」



え!?なに、読心術!?いやいや怖い怖い!



「そんなに怖がるな、ただの冗談だ」



冗談かい!ってか当たってます!何なのこの人ッ



「おれの名はグラディウスだ、よろしくな鳥娘」

「と、鳥娘って…私にはシアって名前があります!」

「わかってる、冗談だ。そんなに怒るな」



な、なんかからかわれてる。すごく弄られてる。
見た目的に無口で物静かそうなのに、人は見かけによらないって本当なんだなー。


とかなんとか考えている内に、グラディウスさんに連れられて来たのは一室の部屋の前だった。
扉の装飾からすると、ここはおそらく…



――――コンコン。



「若、シアを連れて参りました」

「あァ、入れ」



グラディウスさんが扉をノックして用件を述べる。中から聞こえたのはやはりドフラミンゴさんの声だ。
この部屋はドフラミンゴさんの私室ってことになる。

扉を押し開いて中に入ったグラディウスさんに続いて、一応一礼してからその部屋に入った。



「失礼します」

「…失礼します」



部屋に入るとそこは書籍のような造りで、扉と向かい合うように部屋のどんつきには大きな窓があった。
その前に立って窓の外を眺めていたドフラミンゴさんがゆっくり私達を振り返る。



「少しは小奇麗になったなァ」

「…おかげさまで」

「フッフ!ご苦労だったグラディウス、下がっていいぞ」

「はい、若」



礼儀正しくドフラミンゴさんに頭を下げて、グラディウスさんは静かに部屋から出て行った。


あ、これってすごく居づらいやつだ。
この人と二人きりなんて、き、気まず過ぎる。




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