桃色の愛

□幸か不幸か
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世界の色が知りたかった。


知っているのは空の色だけ。
本や話に聞く“海”と言う広大な世界を見てみたい。


生まれた時から空しか知らず、空の次には雲しか知らない。
私が生まれ堕ちたのは“空島”と呼ばれる空の世界で、そこで育ち、そこで狩られた。


何でも私の一族の者はみな“高値で売れる”らしい。


地上では滅多にお目にかかれない貴重な種族(みたい)。
世に広まる“悪魔の実”の能力者がいるわけでもなく、巨人族・小人族・魚人族に当て嵌るわけでもない。
他にも種族がいると聞いたことがあるけれど、私の一族は空で生まれて空で死ぬ。

極々小さな村でひっそりと暮らしている、とても人口の少ない種族なんだって。



何がそんなに珍しいのかって?
それはきっと、能力者のように、あわよくば魔術師のように・・・
変幻自在に自然の力を借りる事ができる不思議な能力(ちから)を持っているせい。

風の声が聞こえる者は風に乗り宙を舞う。
光の声が聞こえる者は光に紛れて姿を消す。
大地の声が聞こえる者は土と語らい世の事を知る。


村長は大地の声が聞こえる人だった。空に居ても地上の様子が耳に届いてくるらしい。
母さんは風の声が聞こえる人で、父さんは雲の声が聞こえる人だった。




肝心の私は?













――――ガタン!




耳に響いた鈍い音と共に、揺れた体が横に倒れかけすぐ側の硬い壁に頭をぶつけた。


「ッ痛」


ゴツン!といい音が鳴ったと思う。
それが合図のように私はゆっくりと瞼を上げた。

目に入ったのは薄暗い小さな空間、慣れない視界にはいくつか蠢く影が見える。
くぐもった声は呻き声や呟く声、時折鳴る無機質な音の出所は私の首に繋がった拘束具の鎖から。
私だけではなく、この空間にいる人全員にそれは付いている。


そう、ここは人攫いの者が用意した檻籠の馬車。
首につけられた首輪には確か爆弾が備えられていると聞いた。
脱走者への処罰はこれを起爆させるらしい、末恐ろしくて背筋が凍る。



「着いたぞ、全員降りろ!グズグズするな!能無し共が!」



さっきまで真っ暗だった空間に突如光がさした。
馬車の入口が開いて、外から人攫いらしき男達が私達を見渡して叫ぶ。

ゆっくりと一人ずつ馬車を下りて行く中、私だけは別の檻に入れられていた為降りる事ができない。



「おい、最後はこれだ」

「丁重に扱えよ!死にもの狂いで手に入れたレア物だからなァ」

「報酬が弾むなこりゃァ!」



口ぐちに声を掛け合う人攫い達を見下ろして、私は檻ごとゆっくり馬車から出された。

見えた建物は裏手だった為外見はわかりにくいが、これは間違いなくヒューマンショップの類の店だと思う。



(売られるのか、私は)



人生を諦めたくはなかった。やりたい事がたくさんあった。
もっともっと長い時間を生きて、いろんな物を見て、触れて…
世界の全てをこの目に焼き付けたかったなァ。



私を閉じ込めた檻がゆっくりゆっくり運ばれる。
首を戒める拘束具がひんやりと冷たく感じた。
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