+零崎遥織の人間欺瞞+

□stage1
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「…あ?」


私は覆い被さっている男の首をプスっとザクっとまるでごぼうでも切るかのように鋏で一刺しした。


何が起こってるか何をされたか分かっていないようなきょとんとした顔の男。



そしてひと呼吸おいた後、ブシャっと噴き出した鮮血。飛び散る赤。


ゴロリと転がる男だったモノ。私はゆっくりと起き上がる。



「きゃあああああ!」


「うわぁああああ!」


「て、てめぇ!ぶち殺すぞ!」





ギャンギャンと喚いて煩いわねぇ…。


耳障り。耳が不愉快。耳に悪影響な声!




「こっちが優しくしてやってれば調子のりやがって!ガキはガキらしく黙って犯されとけばいいんだよ!!」




…………。


ガキはガキらしく?

黙って犯されとけばいい?




あはは!


笑止。嘲笑。揶揄。冷笑。嗤笑。憫笑。嘲罵。嘲謔。嘲弄。愚弄。



一辺の救いも無いくらい無価値な言葉ね。






「な、んで…笑ってんだよ…」




確かに私は自分でも分かるくらい笑っていた。微笑んでいた。うっとりするように。恍惚とするように。



そして男達の間を摺り抜けるように素早く扉に向かい無為を廊下に出し扉を閉める。





『ふふふ!あーあ、追いつかれちゃったわね』




私はずっとナニカから逃げていた。


後ろから迫ってくるソレを見ないようにして、気づかないフリをして。



追いかけてくるナニカから、逃げていた。





でも、それももう終わり。


逃げるのは、終わり。







『逃げるのは、しょうに合わないからね』











それから私は殺して壊して潰して奪い続けた。


いつの間にかリビングは父親含め男だったモノがゴロゴロと転がり一面が真っ赤に染まっていた。






元々グリップが青だったはずの鋏は私の手ごと赤に染まり、赤い鋏にしか見えなかった。




「…ひぃ…っ」



情けない声が聞こえ、隅の扉の方に目をやると腰が抜けたのか座り込んでガタガタと震えている母親がいた。




いつもいつも高圧的に暴力を奮っていた母親があんなに情けなく醜く震えている様を見ると、うん…なんというか、酷く気分がいい。



なんて、絵空事だけどね。






「っあ、あんた!自分が何したか、分かってるの…!?この…っ、人殺し!!」




人殺しねぇ…。確かに人殺しだろーけど別に何でもいいのよね。


こいつらを殺して人殺しと呼ばれようが、警察に捕まろうが、まぁそんときはそんとき。


あ、でも捕まるのは嫌だから逃げようかしら。





あらら?でも私、逃げるのは終わりとかって言わなかったっけ。



…ま、いっか。時と場合によって、ね!






ゆっくりと近づく。


母親はガタガタと震えながら必死に廊下に出て扉の傍に蹲っていた無為の頭を引っ張り、どこからか出したナイフを無為の首に当て、それで、




「あ、あんた!こいつがどうなっても」




血が噴き出た。





「……え?…ぐ、っあ"、い…ぎゃあああぁぁぁ!!!目が!あたしのっ、あたしの目がぁぁ!!」





私が投げた鋏が左目に刺さり、転がり喚く母親。





『五月蝿い』





母親が転がったため落ちたナイフを拾い、首に向けて一直線に振り落とした。




ぴたりと止む騒がしい声。




シーンと静まり返る家の中で、無為の泣き声だけが響いていた。





「ぉねぇ、ちゃっ、っひく…遥無ねぇちゃん…っ」




泣き続ける無為。本当は抱きしめてあげたいけれど、血に濡れた体じゃ触れることすらできないから…。




『無為』


「ねぇちゃん…?」



まだ終わってない。ナニカに見られている。




だから、だから、







『逃げなさい』






「え…?」







ごめんね。








『お姉ちゃんの友達が第二公園にいるからその人の所まで走って。あとはその女の人が何とかしてくれるからその人の言うことちゃんと聞いて』


「や、やだよ…!おねぇちゃんも一緒に行こう!」


『私は行かない。行けない。まだやらなきゃいけないことがあるの』


「じゃあ俺も一緒にやる!だから」



『逃げて』


「っ!」


『お姉ちゃんからの、"お願い"』








無為が、私の"お願い"に弱いのを知っていた。逆らえないことを知っていた。
無為が私のお願いなら何でも叶えてあげたいと思ってくれてることを知っていた。





無為は泣いて顔を歪ませて何度も何度も頷きながらゆっくりと立ち上がり戸惑うようにしながら、躊躇いながら、走って家から出た。









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