NOVEL(別設定2)

□百花繚乱 番外編 もう一つの華
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目の前に突然現れた少女の美しさに

託生は思わず息をのんだ。









少し明るい栗色の艶やかな髪の毛


勝気そうな眉に


愛らしい唇


生き生きと輝く大きな瞳は長い睫でくっきりと縁どられている。


白絹に金糸銀糸で波の模様が散る単衣に,


艶やかな牡丹の華が咲きこぼれる腰巻姿


誰もが振り返る華やかな容貌


そこにあるだけで日輪のように光り輝く


生まれながらに皆に傅かれ大切にされる存在






ああ・・世の中にはこのような方もおられるのだと


託生は,心の中でひっそりと思った。






凍り付いたようにシンと静まり返った部屋を


くるり眺めまわすと,

少女は託生の前へずいっと進み出た。






「あなたが,お方様?」


「あ・・・はい。」


託生は,小さな声で返事をした。






「ふーん。」


少女は,鼻と鼻が触れ合いそうなほど顔を寄せてくる。


「・・・・・。」


託生は,無意識に顎をひいた


と・・・


「普通だね。」


「は?」









「よい。山下,帰る。」

「はい。」


少女は小さくふんっと鼻を鳴らすと


付き従えてきた大柄な侍女を促し,

悠々と部屋を退出していく。



あとに残された人々は,呆気にとられ


言葉もない。



「あ・・・どちらの姫様・・・?」


やっとのことで絞り出した託生の声に


目覚めたかのように


室内が騒がしくなった。






「お方様に対して何と失礼な!」


「礼儀を弁えぬ新参者のお中臈でしょうか?」


「お中臈?」





託生はどきりとした。


お中臈であれば,上様にお目見えすることもある。


あれほどの美少女を託生はこれまでに見たことがない。





「上様の隣にあれば,さぞ絵草紙のように美しいであろうな・・・」



ぽつりと呟いた言葉は噂話に夢中の侍女たちの声にかき消され




届くことはなかった。










あれほど美しい人なら上様のお心は動くであろうの・・・


黒雲がざわざわと音を立てて湧き上がる。






「上様・・・」






側室という立場の心もとなさに

託生の心は初めて揺れていた。
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