二人の日々(ギイタク小話)

□年の初めのためしとて
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ぼくは、無言だった。

「おっ,託生やるじゃん。」

隣から覗き込んできたのは,世の中の運を全て手中に収める男。

「さすが葉山。外さないよな。」

反対側から覗き込んできたのは,先ほどの男と同じ星のもとに生まれてきたと思われる男。

「うーーー。」

人の不幸を笑うなよ。

ぼくの手の中には,一枚の忌まわしい紙切れがあった。



年末年始の忙しい中

それでも帰国したギイとぼく


久しぶりに再会した赤池章三を誘い,初詣へとくりだしたのだが


「おみくじひこうぜ。おみくじ。」

例によって例の如く,季節のイベント事大好きなギイがはしゃぐように言う。

「えー,ぼくいいよ。」

「なんで?一年最初の運試しだぞ。やろーぜ。」

「いいってば。」

「章三は,するだろ?」

「ま,おみくじくらいなら付き合うよ。」

「ほらー,託生!」

んー・・・赤池くん,おみくじとかあんまりしないような感じなのに・・・。

「占いって,嫌いだったよね?」

「葉山。おみくじと占いは違うぞ。おみくじは,引いた人の一年に助言を与えてくれるものなんだぜ。」

「へー。」

ぼくは,気のない返事をした。

「ほら!託生。行くぞ。」


ぼくの意思なんぞお構いなし。

あれよあれよという間に,おみくじ売り場に連行されたぼく。


「ほら。ひいて。」

何の気なしに引いた一枚。

「何だった?」

「えっと・・・」

「託生?」

「・・・・・」


新年一発目に引いたおみくじ

それは,「大凶」

せっかくの新年なのに・・・大凶??



「ある意味,レジェンドだな。」

そう言うギイの手にあるのは,言うまでもなく「大吉」で

その相棒の手には,やはり同じ物が握られていた。


「正月に大凶を引くとは,滅多にない珍事だな。」

赤池くん,それ全くフォローになってないんですけど・・・。


「だから,嫌だって言っただろう。」

露骨に不機嫌になったぼくを見て,ギイは何か思うところがあったらしく

「ちょっと貸してみろ。」

おみくじを取り上げると,まじまじとそれを眺め,やがてぼくの方を見てにっと笑った。

「いいこと書いてあるじゃんか。」

「どこが?」



「どれどれ?」

ギイの肩越し,章三もそのいわくつきの紙片を興味深げに覗き込んでくる。


「願望・・・急に思うように行かぬ
縁談・・・本人同士の意思通じ方が足りぬ
交際・・・親切だと思いこむといけない
病気・・・回復が遅れる
転移・・・やめた方がよい
事業・・・人の口車に乗るな
試験・・・目上の人の意見に従え
産児・・・丈夫な児が生まれる・・・か。

さすが大凶。ほとんどいいことは書いてないなあ。」

でしょう?ほら赤池くんも同意見なのに。


「そうか?」

ギイは涼しい顔だ。


「まあ,考えてもみろよ。」

「え?」

「託生。おまえ,急に叶えたい願い事ってあるか?」

「・・・ないけど。」

「だろ?」

「けど・・・ここは?意思の通じ方が足りぬって・・・」

ぼくとギイ,お互いの事分かり合ってないのかな・・・。

「最近忙しくてお互い二人の時間を取れなかったことは事実だからな。
そのために水入らずの休暇をとったんだし,今夜からおまえのこと放さないから大丈夫。」

「はいはい。」

バチンと色っぽいウィンクを飛ばすギイと赤面して固まるぼくを章三は呆れたように見ている。

「まあ,交際もお人好しな葉山が人を信用しすぎるなってことだし,葉山は今健康なんだから病気しないように気をつければいいだけだし。」

「そうそう。転移もだめってことは,当分NYを拠点にがんばれってことだろう?」

「えー?」

「えーって,葉山何かあるのか?」

「バイオリンの恩師がウィーンに行ったらしくて,託生も誘われてるんだよ。」

「へえ。」

「ほら口車に乗ると事業は失敗するってあるだろ?」

「口車ってなんだよ。じゃあここは?目上の人の意見に従え・・・須田先生は目上の人だよ?」

「それは試験だろ?別に託生,コンクール受けに行くわけじゃないだろ。」

「う・・・ん・・そうだけ・・・ど・・・」

「まだ,NYに本拠を置いて1年にも満たないんだから,もう少し頑張れって教授にも言われたんだよな?」

「うん。」

今,師事しているエリオット教授も目上の人だ。

困惑するぼくに,ギイは小さく微笑んだ。


「な?凶は裏返せば吉。良いことと悪いことは表裏一体なんだ。運を吉とするも凶とするも当の本人の心の持ちようってわけだ。」

それは・・・そうかもしれない。


「というわけで,章三。」

「あ?」

「オレ達に丈夫な子が生まれたら,お前に命名権やるよ。」

「いるかっ!」

即答する章三に,ギイはあははと大きく笑うと

ぼくの身体を抱き寄せ優しく囁いた。

「何にせよ,おまえが決めたことなら,オレは絶対応援するよ。」

「ギイ?」

見上げたギイの瞳は,いつものように温かく穏やかに凪いでいる。


「今年も,オレの側にいてくれる?」

優しいギイ

いつもぼくのことを最優先に考えてくれるギイ

ポジティブな彼といると,どんな困難でも乗り越えて生きていける

そう素直に思える。

「うん。ギイ。」

君と一緒にいる時間を大切にしたい。

君の側にいたいよ。



「託生。愛してるよ。」


ぼくの唇に掠め取る様なキスをすると後ろを振り返った。



「章三〜!オレん家寄るだろ?」

「あー?」

「ふみさんがおせち用意して待ってる。おまえも連れて来いってリクエストだ。」

「オッケー!」

ギイは章三に手を振ると

「さ,託生。行くぞ。」

「うん。」

あたりまえのようにぼくの手を取って歩き出す。


今年も,こんなささやかであたりまえな日常を

彼と一緒に過ごしていくことができますように。




A Happy New Year ! 平和で素晴らしい年になりますように。 by Gyee & Takumi





今年は,ギイに丸め込まれないよう,葉山に成長が見られますように。 by Syouzou


葉山・・・まだまだだな。
















※ 大凶のおみくじの言葉は、鶴岡八幡宮のものを参考にさせていただきました。

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