二人の日々(ギイタク小話)

□天使の落書き
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「月ってさ・・・」


「ん?」


煙草を燻らしていたオレは,


裸のままベッドに座り膝小僧を抱え込んでいる可愛い恋人を見た。



「どうしていつも同じ模様なのかなあ。」


「んー。」



今夜は,十六夜。


世間で言うところのスーパームーンだ。


デートの約束をし,南東の空にぽっかりと浮かぶ赤い月を愛でてから


オレのゼロ番にしけこんだのだが。



「ほら,うさぎがおもちついてるみたいなさ。」


「ああ。」



くりくりとした大きな瞳で,興味深げに窓の外にあるはずの月を探す恋人の


愛くるしい姿に目を細める。



月の公転周期と自転周期がほぼ同じだから


地球からは,永遠に月の裏側を見ることはできない・・・



せっかくの美しい月夜に


その説明は無粋だよな。


ならば・・・



「あのさ,託生。」


「え?」


「神様がこの世を作り出すとき,天使が月の裏に落書きをしてしまったんだってさ。」


「落書き?」


恋人の目がきらきらと輝く。


「そう。で,困った神様が人間に月の裏を見せないようにしたんだってさ。」


「へええ。」


託生は,感心しきりだ。


「そうなんだー。」


いや,これはお話の一部なんだが・・・


まあ,喜んでいるみたいだからいいとしよう。


「どんな落書きをしたんだろうね?」


布団に包まったまま,楽しそうに窓から乗り出して


真上にのぼった月を見つけようとするから


焦ってしまう。


「こら!危ないだろう?」



そのまま,腕をつかんでベッドに再びコロンと転がすと


うつぶせになった託生に,そのまま体重をかけた。


「重いよ!ギイ!」



託生は,身体の下から文句を言うが,そんなことは気にしない。



「でもさ。神様が困るくらいだもの。相当変な落書きだったんだよね。」


肩越しにオレを見て,ぷぷぷと笑う。


「だな。」




「へのへのもへじとか?」


おいおい


「それとも小さい子が画用紙にクレヨンでぐちゃぐちゃって描く,あんな感じかな?」


ころころと笑う恋人は無邪気で


オレは,ちょっとした悪戯心に誘惑された。



「オレも,綺麗な月の裏側に落書きしよっかなー?」


「は?」


訝しむ託生の両腕を摑んでにやりと笑うと


滑らかな青磁の肌に唇を落とす。



「ちょっとっ・・・ギイ・・・・やっ・・・・」


一度,極めた身体は,燻っていた奥底にたやすく火をつける。


「あ・・・ん・・・っ・・・」


じたばたともがいていた恋人の身体から力が抜け


唇から少しずつ零れ始めた甘い吐息



「託生。」


しっとりと吸いつくような極上の肌にオレは噛り付き


熱い唇で美しい模様を刻み込んでいく。



「あ・・・あ・・・ん」


耳元に落とされる艶やかな調べ



細い足首を摑むと


恋人の身体を開き,欲望のままに突き進む



「あああ・・・ん・・・や・・」



愛らしい唇から間断なく落ちていく切ない啼き声に溺れる




赤い月の魔に魅せられた


妖しくも美しい一夜









翌日




章三に指摘され


落書きの事実を知った託生は


迷わずオレに鉄拳をくらわした。



頬にはスーパームーンばりの


赤い掌のあと






どんな落書きをしたかって?



それはキスマークで丹念に仕上げたハートの形





恋人の背中のど真ん中に創り上げた


この秋,最高の芸術作品だった。







「体育祭の練習で、毎日着替えるのに・・どうするんだよ!ギイのばかー。」o(;△;)o by託生







※ ま、託生くんも怒るわな・・・( ̄ー ̄;
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