NOVEL
□サンタの贈り物
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「お疲れ様でした。」
「これでラストか?」
「はい。」
「そうか。」
ギイは,決裁したばかりの書類をぽんと目の前のデスクに放ると,
椅子の背もたれに身体を預け,ほうっと息を吐いた。
「コーヒーでもお持ちしましょう。」
微笑みながら労う島岡に
「いや・・・いい。オレ,一旦帰るわ。」
ギイは即答する。
「自宅へですか?」
「勿論。」
頷いてから
「あーあ。せっかくのクリスマスだってのになあ・・・。」
とぼやいた。
「ま・だ,クリスマスですよ。」
クスリと島岡は小さく笑う。
まあ,あと23時間ほどはクリスマスだが
どうせなら島岡じゃなく託生と一緒にクリスマスを迎えたかったと思うのが人情ではないか。
「明日は予定通り11時のフライトでよろしいですね?」
「ああ。どうせ朝一の会議まではいなくちゃならないんだからな。」
自分の誕生日に引き続きクリスマスも恋人と一緒にろくに過ごせないなんて今年は何と不幸な年まわりだったことか。
「いいよ。ぼくは逃げないから。ギイ。ちゃんと仕事してきておくれよね。」
そう愛しい人に言われてしまえば,「わかった」と応える以外にはないだろう。
ギイとしては,託生に駄々の一つもこねてもらえたら,それはそれで頬が緩んでしまうのだが・・・。
慎ましい恋人は,いつも自分の事よりギイのことを第一にと考えてしまうのだ。
そんな気性だとわかっていて,そんな託生に惚れたのだが
こんな時は,やはり歯がゆい気持ちが頭をもたげてくる。
「ギイ。車の用意ができました。」
「サンキュ。島岡。」
「メリークリスマス。素敵な夜を。」
「ああ。」
ギイは苦笑するとエントランスへと直結するエレベーターへと乗り込んだ。
「お帰りなさいませ。」
ペントハウスに到着すると,いつもと変わらぬ穏やかな笑みをたたえた執事のマックスが,ただ一人ギイを出迎えた。
「遅くまですまないな。」
「いえ。」
「もう休んでくれ。明日の朝はいつも通りだ。」
「わかりました。」
静かに一礼して自室へと戻っていくマックスを見送りながら,
ギイはクリスマスカラーに彩られたエントランスを見渡した。
中央には例年の如く大きなクリスマスツリーが飾り付けてあるが
今年は,オーナメントも少なめで少し寂しげに感じる。
去年までは,託生がメイドのアリスや妹の絵利子と,
集めたオーナメントを賑やかに飾り付けていたよな
ギイは,その光景を思い浮かべ,小さく笑みを零した。
エントランスを抜け,ひっそりと静まり返ったリビングに入る。
リビングからつながる奥の寝室には,シックなブルーの電飾に包まれたもう一つのツリー
このツリーも去年と同じものだ。
そして,ツリーの隣に置かれたサイドテーブルの上には
ミルクの入ったコップとクッキーの入った皿
これも,メイドのアリスが用意したものだろう。
あれは・・・3年程前だったろうか?
託生が絵利子と粉だらけになりながら,
特大のジンジャーマンクッキーを作っておいてくれたっけ。
オレときたら空腹に耐えかねて,その手作りクッキーを全部食べてしまったんだよな・・・。
あの頃は,二人が別々に暮らす日が来るなんて思ってもみなかった。
「ふう。」
ギイは寝室に入ると,ネクタイを緩め,腕のカフスボタンを外した。
カフスボタンをクリスタル製のグラスに投げ入れると,カチャリと冷たい金属音が一人ぼっちの部屋に寂しく響く。
その時
ん?
微かな気配を感じ取り,ギイはゆっくり視線を上げた。
「なんだ・・・?」
そっと寝室の奥へ足を忍ばせていくと
ベッドの中に見え隠れする赤いもの
「う・・・わ・・」
危うく声をあげそうになって,慌てて両手で口を塞いだ。
・・・嘘だろ・・・?
ベッドの中には可愛らしい赤い装束のサンタクロースが,くうくうと寝息を立てていた。
「本物かな・・・?」
そっと鼻をつまんでみると,
「む・・・・ん・・・」
煩いとばかりに,頭からすっぽり布団をかぶってしまう。
「本物・・・だな。」
この寝起きの悪さは,間違いなさそうだ。
にしても
「なんでここにいるんだ?おまえ。」
素朴な疑問を呈してみる。
「オレ,明日は11時の便でそっち行くって,言ったよな?」
ため息交じりの声に反応したのか,愛らしいサンタの瞳がゆるゆると開き
「・・・わ・・・っ・・・ギイ・・・」
覚醒した。