NOVEL

□シュガーベイブ
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こんにちは

あら,いらっしゃい

あなたが選ばれたの?

ええ


彼女は,うっすらと頬を染めて微笑んだ。


ねえねえ タクミの第一印象は?

え・・・と,わたし・・・日本を出てからしばらく日本人に会っていなかったから・・・だから・・・

うんうん

あの柔らかな黒髪と優しい黒い瞳に一目惚れしてしまって

ああ,あなたもなのね


え? みんな そうなんですか?

そうよ

彼の漆黒の髪と夜色の瞳

それに甘い声,しなやかな指,

ここにくる娘(こ)は,みんな彼にベタ惚れよ


ー そういう私もタクミのことが大好き でも,この娘(こ)には内緒だけどね −



・・・タクミさんって・・・もてるんですね・・・



ええ。でも彼は全然自覚なしですけどね




そういえば・・・

彼が「君にするね」って わたしに触れたとき

隣の娘(こ)に,物凄い目で睨まれたような気がします・・・

日本の娘(こ)?


いえ・・・アメリカの・・・


ああ,タクミの好みじゃないわ

あの娘(こ)達といったら,化粧はケバいし,くどいし,しつこくてねー


彼がわたしを連れ出してくれるまで,店にいるみんなの視線が痛いくらいで・・・



ああ。みんな,狙っていたでしょうからねー


なんで・・・わたしだったのかしら?


それは,後でわかることよ。

タクミが帰ってきたらすぐわかるわ。

・・・・






数時間後,わたしはタクミさんに連れられて

彼の部屋へはいったの


その部屋は,ブラックティという薔薇の花がクリスタルの大ぶりな花器にたくさん飾られていて

うっとりするような甘い香りが匂い立っていたわ


硝子テーブルの上には,シャンパンを注ぐためのフルートグラスが二つ

仄かな間接照明が落ち着いた雰囲気で

彼にぴったりだと思ったわ



やあ きみもかい

え?

そこでわたしは 新しい出会いをしたの

少し大人びた端正な容姿

穏やかで綺麗な瞳の彼


あなたは?

僕も選ばれてここへ来たんだ

だれに?

まさか・・タクミさん?


選ばれたのは わたしだけじゃなかったんだ

内心ショックを隠し切れないわたしに

彼は,優しく教えてくれた


ちがうよ

僕を選んだのは彼さ


彼の視線を追うと

そこには,この世にこんな綺麗な人がいるのかと思うくらいの美しい人

今帰ったばかりなのかしら?

ちょっと古めかしいトレンチコートを脱ぎ

タクミさんに向けた笑顔の蕩けるほどに優しいこと



わたしがぼうっと見とれていると

彼はわたしに,きみ,とっても魅力的だよ

タクミさんが選ぶだけのことはある

と褒めてくれた。


その笑顔がまた素敵で

ああ,わたしったらタクミさんに一目惚れしたっていうのに

浮気性なのかしら?


僕は,君が好きだよ

君は?

にっこりほほ笑む彼に

胸が高鳴る


わたしも・・・好きになったかも・・・

赤くなって俯いた。


よかった

彼はにっこり笑うと,、うっとりするような声で囁いた


僕達,これから素敵な時間を過ごせるよ

え?

蕩けるほどに愛おしい時間さ


わたしは,どきどきした

それって・・・








「ねえ,ギイ。」

「んー?」

オレは,ネクタイを外しクローゼットのバーにかけると

託生の待つソファへと赴いた。

「前は手に入れるの結構大変だったんだけど,このごろはあちこちで見かけるようになったよね。」

託生はにっこり微笑んだ。


「何が?」

「これ!」

「ああ。」

一応,どの専門店にも必ず一定量は入れてくれるよう頼んでいるからな

「おかげで,一日に何件もお店を回らなくてすむようになったもん。」

「そうだな。」

「今年もお互いのを半分こしようね。」

「ああ。」

目の前には,ピンク色のシャンパンの入ったフルートグラスと

あの定番のもの

今年も二人で,このひとときを過ごせることに至福の時を感じる。


オレは,託生の隣に座ると,さらりとした香しい黒髪に鼻を埋めた。

ふんわりと甘い愛しい恋人の香りに

仕事での緊張が嘘のように溶け去り

心の底から癒される


「なあ」

「え?」

「食べさせてくれる?」


上目づかいに甘えてみると

真っ赤になってどぎまぎしている恋人

全く,いくつになっても初々しいよなー


「いいだろ?託生。」

「うん・・・」


頬を桜色に染めながら,それでも

その美しい指でそのものをパキリと折ると

おずおずとオレに差し出した。



オレは,くすりと笑い

唇を薄く開けると

託生の指ごと咥え込んだ。

ちろりと舌先で指を舐めあげたのは,ご愛嬌


「・・・っ・・・・」

ぴくりと体を震わせた恋人の身体を素早く抱き寄せ

深い口づけを施す。

唇を抉じ開け逃げ惑う舌を追いかけ捉えると

幾度も角度を変えて吸い上げる


「・・・あっ・・・っふ・・・」

息苦しさに,きつく閉じられた眦の端がほの紅く染まる様は

何度見ても扇情的で

ようやく解放したまあるい唇が赤くその存在感を誇張し

綺麗な瞳に涙の膜が張るのを見れば

もう加減をすることなどできなくて



オレは,気泡を上げる薄桃色のシャンパンを口に含み

自分の持つもう一つのものを小さく割ると,その欠片を口に咥えこんで

託生の唇に捻じ込んだ。

「・・・んっ・・・っ・・」

含みきれない桃色の液体が首筋を伝って流れおちていく

一筋

二筋

のけぞり晒される白い首筋


オレは,着ていたワイシャツをかなぐり捨てると

恋人の纏うシャツを乱暴に剥ぎ取った。


音を立ててボタンが弾け飛び

大きく捲れ上がったシャツの下に

滑らかな柔肌が見えると

オレは,迷うことなくその芳醇な果実に牙を立て

食い散らしていった。







な?どう?

あ・・・ん・・・

蕩けて・・・しまう・・・

もっとこっちにおいで・・・

後から追いかけてきた彼がわたしを熱く包み込んだ

ね?ぼく達これで永遠に一つになれるよ

ええ・・・




タクミさんの体温を感じながら

彼に包まれる喜びに浸るわたし

幸せで

とても幸せで


愛してるよ

彼の甘い声



至福の時に包まれる







こうなると,タクミはベッドに連れ去られちゃうのよねー

まあ仕方ないよ 毎年のことだしね

今年選ばれた彼らも相性ばっちりで良かったこと


そりゃあ,あの二人が選んだわけだから



そうね。私たちも仲良しですものね?


私は隣に並ぶ彼を見詰めた


仲良し?

ちょっと不満そうな声に驚く


え?違うの?


私はそうだと思ってきたのに・・・ショック・・・・


オレは,君を愛してるよ


・・・・・・


君は?


私は,きっと涙ぐんでいたと思う


私も・・・・


タクミが私達を選んで,エアメールで彼に送った

その時からずっと

あなたが好きだったわ



エリーの機転でギイの手元に届いてからは

離れ離れの二人にやきもきしたり

二人が一緒に住むようになった日は祝杯をあげたり

けんかをしたり

仲直りをしたり

そして,この部屋のベッドルームで

毎晩のように睦み合う彼らをちょっぴり羨ましい気持ちで見守っていたりしたわね




これからもずっと

一緒だ



ええ


私は彼と一緒に飾られた額の中で頷いた


永遠にずっとね





                          FIN

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