NOVEL(別設定2)

□百花繚乱 番外編 もう一つの華
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「どれもお似合いですね〜。」


真行寺がほおーっとため息をつくと


「本当に,迷ってしまいますわね。」


侍女の茜も満足そうに頷いた。


他の侍女たちも皆にこにこと嬉しそうに反物を眺めている。


「・・・そうかな・・・。」


託生は,少し伏し目がちに彼らを見つめ頬を染めていた。






来月に迫った月見の宴


その際,得意の琵琶を弾くようにとの将軍直々の願い


託生は,快く承知したのだが


宴の召し物用にと毎日届けられる夥しい数の高級な織物


装飾品の数々に託生は嬉しい反面気圧されてしまうのだ。






「一つあれば十分なのに・・・。」






「こちらの蘇芳がお方様の清楚な美しさを一層引き立たせると思います。」


「いえいえ丁子の西陣もお似合いですわ。」


「いや蘇芳が・・・」


「いえいえやはり丁子が・・・」


両者譲る気配はないようだ。


「あの・・・」


託生は困ってしまった。


真行寺も茜も,この大奥に入った時から


託生付きとなっている信頼すべき侍女だ。


どちらも,この自分のことを何よりも一番に考えてくれている。


その二人が似合うと言ってくれているのだから


きっと自分が選ぶものよりも良いものに相違ない。






でも・・・どちらかなんて選べない・・・






「それなら・・・」


「二つこしらえましょう!」


真行寺と茜の声がハモった。


「え?」


二人の間でおろおろとしていた託生は


突然の意見の一致を見た二人に呆気にとられた。


「そうですわよ!二つこしらえればよいのですわっ!!」


茜が興奮したようにまくしたてる。


「上様の御寵愛のお方様ですもの。お召し物の二つや三つや四つ!」


「・・・一つでいいけど・・・」


ぽつりと呟いた託生の言葉は茜には届かなかったようだ。


「用途に合わせて違うものをこしらえましょう。」


真行寺はにっこりと笑った。


「あの・・・あまり派手なものは・・・。」


「わかっております!」


茜は力いっぱい頷いた。


「内気で控えめなお方様,その内側から滲み出す清楚な美しさを一層際立たせるお召し物を


 この茜が作り上げてみせますとも!」


茜は大きな胸をドンと叩くと豪快に笑う。


「あ・・・ありがと・・・。」


とにかくあまり派手ではない色目の反物に決まったことに託生は胸を撫で下ろした。






その時,化粧の間の襖戸がカラリと乾いた音を立てて開いた。









「上様御寵愛の託生様とはどなた?」





「え?」
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