NOVEL(未来編)

□恋人達の海
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携帯電話のディスプレイに踊る懐かしい友人の名。

いつもなら,嬉しいはずの日本からの電話が,今は出るのがとても怖い。

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執拗に鳴り続ける電話に,ぼくはとうとう観念する。

どんなに隠したところで,いつかは分かってしまうのだから。

大きく息をつき,震える手で通話ボタンをプッシュした。

「・・・・はい。」

「葉山?」

「うん。」

「いるのなら早く出ろよ。」

「あ・・ごめん。」

「元気か?」

「・・・うん。」

「今年は,こっちにいつ戻ってくる?」

「そう・・・だね。ぼくは再来週あたりかな?」

「奴も一緒なのか?」

「・・・・。」

「葉山。今日本でおかしな噂が立っているんだが・・・。」

「あの・・・ね。赤池くん。」

ぼくは,彼の言葉を途中で遮った。

「ん?」

「ギイの結婚が決まったんだ。」

努めて冷静に淡々と事実のみを報告する。

章三は黙った。

「あの・・・。」

「だれがギイと結婚するって?」

章三の感情を押し殺した低い声が耳朶に響く。

答えるのを少し躊躇ったけれど,ぼくはなんとか口を開いた。

「アメリカ国内でも屈指の財閥のご令嬢だって。」

「・・・・・。」

「だから,ぼく日本に帰ることになった。」

「おい。」

章三の声,怒ってる。

「何の冗談だ?」

「冗談でこんなこと言うわけないだろ。」

「なっ・・。」

「じゃ,またね。」

「おい!葉山っ・・・・。」

ぼくは,堪らず携帯を切った。

そして,電源をOFFにすると,ぐったりとソファに凭れかかる。精神的に限界だった。

「・・・・ギイ。」

その名を呼んで,はじめて涙が零れた。

泣いちゃいけない,泣いちゃいけない・・。

そう思うのに涙が止まらない。

「・・・・・ギイ。・・・・ギイ。」

暮れゆく西日に包まれたペントハウスの一室で,ぼくは蹲り涙を流し続けた。
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