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□シクラメンの蕾 -前編-
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コーヒーの香りが漂う中パンが焼けて、簡単に用意したサラダやスープを食べる。
それがここン十年の僕の朝のメニューだった。

今では味噌汁と炊き立てのご飯が空腹を刺激する完全和食メニューにチェンジしていた。
他は焼き鮭に佃煮とおひたし、それからお茶の用意を整えておく。
朝にお茶を飲むと体にもいいけど、縁起もいいんだって。
穏やかな笑顔とともに教えてくれた人を思い出して、ほんわかと僕にも笑みがうつった。


「・・・と、そろそろ起こさないと」


パタパタとスリッパの音を立てて寝室に向かった。
広いリビングを横切って扉を開ける。
入口でスリッパを脱いで、もう一組用意してから中に入る。


何故スリッパを脱ぐかって・・・寝室はい草の香りも新しい畳張りの和室だからだ。
和室なんだけど、お布団じゃなくてベッド。
和洋折衷というか、和風と洋風が混在していて、けれど煩雑としていない。
自由だけど統一感があって、この部屋の主にピッタリだ。


ベッドで眠っているのは鼻梁もすっきりと整った美丈夫で、毎朝見ていても見飽きない。
これは僕だけの特権。
このまま寝かせておきたいけれど、ここは心を鬼にして起こさないと。

「常盤。起きて。もう朝だよ」

広いベッドに腰をかけて優しく声をかける。
寝乱れた前髪をかき上げて、眉を寄せる常盤の顔を撫でる。


「ん・・・」


常盤が薄らと瞳を開ける。
眠そうにぼんやりとしている常盤が可愛くて、笑みが浮かんでしまう。
くすくす笑いながら声をかけると、常盤の顔にも笑みが浮かんだ。
何だかイタズラっ子みたいだな、と思った瞬間、


--グイッ


「わあっ!?」

腕を引っ張られ、体勢が崩れなおも引っ張られて・・・気が付けばベッドの中で常盤に抱き込まれてしまっていた。

「と、常盤」
「おはよう、椿」
「お、おおおはよう・・・あの、もう起きないと」
「うん、椿が起こしてくれたからね。ちゃんと起きるよ」

だったらベッドから出ようよ!
寝起き特有の暖かさと常盤の香りに包まれて、朝から刺激が強すぎてくらくらする。
目の前には常盤のドアップ・・・・あ、気絶しそう。

「椿・・・」
「だ、だだ、だだだめええっ」

朝から色っぽい雰囲気を醸し出して迫ってきて、慌てて常盤の顔を抑えた。
途端に不満そうな顔をされたけど、今日は平日でこれから仕事なのに・・・

「椿、約束は?」
「う・・・うう・・・」

それを出されると弱い。

「で、でも、ご飯冷めちゃう・・・」
「うん、椿のご飯を早く食べたいから。ほら、早く」
「うー・・・・」
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