***

□家政夫に、なりまして
1ページ/8ページ

「初めまして、家政婦協会より派遣されました、小磯康彦です。よろしくお願いします」

オレ、小磯康彦は、今日から長谷部家専門家政夫として派遣された。
そして今、雇用主である旦那様に挨拶を終えたところだ。

旦那様は何度か頷いた後、簡単に家の中を案内され仕事内容を再確認した後、忙しそうに会社へと戻っていった。
休みだというのに、多忙なことだ。
まあ、稼いでくれればその分オレの雇用も安定するわけだから応援するけども。


長谷部家の家族構成は、旦那様と小学五年になる男の子が一人。
何ともわかりやすい父子家庭だ。
約2年前に母親が亡くなって以来、子供を育てるため仕事を増やし家のことは家政婦に任せきっているらしい。


子育てのために金を稼いで、人を雇って金を消費して、生活のために仕事して・・・本末転倒な気もするけど、所詮他人の家庭のことだからツッコミはしまい。


オレが家政夫になった経緯は、言うにやまれない事情のせい。
オレの顔は男も女も気に入るものらしく、どんな職種に就いても同僚に上司、それに客からの過剰な好意を持たれてまともに仕事ができないからだ。
顔を見せる必要のない工場に就いても、研究職等の極限られた人としか会わない仕事だろうと、短期間で人間関係で問題が起きて辞めるハメになる。
そんな時見つけたのが家政夫の仕事だった。
家事全般は何の問題もない。
最悪雇用主に好意を持たれても、一人や二人ならどうとでもあしらえると思った。
念のため、協会に経緯を説明し、なるべく問題の起きにくい家庭に派遣してもらえるよう希望は出しておいた。

そんなオレにとって、長谷部家は中々の好条件の家庭だった。
ただ、気になる点は、家政婦が頻繁に変わっているということ。
報告書では、小学五年の息子がかなりの問題児らしく、我儘やイジメに耐えきれず協会に訴える家政婦が相次いだそうだ。
せっかく作った食事を食べられない状態で残していたり、珍しく家事を手伝ったかと思えば家の中を滅茶苦茶に汚して自室に籠ってしまったり、また一言も口を聞かないこともざらだそうだ。
相手が女だから舐めているのかもしれないと、旦那様が男の家政夫を希望し、オレが派遣された経緯だ。


旦那様は多忙でほとんど家におらず、唯一、小学五年の少年を相手するのみ。
小学五年の男子なんて、世の中で一番単純な生き物だ。
好奇心旺盛で、電池が切れるまで全力で動き回り、異性や自分の体に興味を持ちだす。
ちんこやおっぱいの単語に異常に食いつき、うんこと言っておけば100%笑い転げる。
頭の出来より、目に見えるわかりやすい技術の熟練に素直に敬意を表す。
わかりやすく言えば、足が速い、ゲームが上手い、ヨーヨーやけん玉が上手ければそれだけでヒーローだ。


確かに母親でもない女性では荷が勝ちすぎるが、オレならどうとでもなる。
むしろ、早い段階で上下関係をきっちりさせて、いい子に躾てやろう。
旦那様の評価もよくなれば長期的に仕事を続けられるし、オレの生活も安定する。
とりあえず、帰ってきたらうがい、手洗い、宿題を徹底させて、オレの言うことに従順に従うようにしてやろう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ