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□デート注意報
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禁止ワード:え?こんなアラサー・・・




業務終了後、ほぼ日課になっている常盤の私室にて他愛もない会話をしているときのこと。


「え?椿、料理できるの??」
「ん?うん、だって大学から10年くらいずっと一人暮らしだったもの。一通りの家事はできるよ」
「椿の作ったお弁当が食べたい!」

キラキラと、珍しく興奮した常盤に僕は一も二も無く頷いていた。

「いいよ。じゃあ、お弁当持ってどこかに行こうか?行きたいところある?」
「植物園!」

お弁当とくればピクニック?といったノリで訊ねると、常盤の答えは思いもよらないもの。

「え・・・」

思わず聞き返すと、常盤は照れくさそうに頬を染めた。
凛々しい美男子が頬を染めるって、ギャップが可愛くて見蕩れてしまう。

「ずっと前に約束して実行できなかったから・・・椿と約束した事は破りたくないんだ」
「常盤・・・」
「子供臭いよな・・・」


植物園はいつかの約束。
もう10年以上前の約束で、すっかり忘れたものと思っていたのに、常盤は律儀に覚えていてくれた。

感極まっている僕を勘違いしたのか、常盤が顔逸らして反省するかのように俯いてしまう。
そうじゃないと伝えたくて、僕は後ろから常盤に抱きついた。

「椿?」
「嬉しいんだ。常盤が覚えていてくれて」

腕を回してギュッと抱きしめる腕を、常盤も抱きしめてくれる。
常盤の着物から花の香りと常盤自身の香りがする。

「スケジュールの確認するよ。腕によりをかけてお弁当作るから」

背中に顔を埋めて喜びを伝えていると、常盤が不満そうに僕の腕をつついてくる。

「常盤?」
「椿ばかりずるい。僕も椿を抱きしめたい」
「なっ・・・」

顔を見られたくなくて力をこめてしまっていたけれど、結構大胆な行動だったかもしれない・・・
アタフタと慌てているうちに常盤は体を翻して真正面から僕を抱きしめた。

「常盤っ」
「うん、この方が安心する。椿から抱きしめてくれるなんて滅多にないから、さっきのも貴重だけどね」

ギュッと抱きしめられながら耳元で囁かれて、確認しなくても耳まで真っ赤になったのがわかる。
くすくすと笑う常盤の余裕が悔しくてムッと顔を上げると、幸せそうな蕩けるような笑顔を浮かべている。


あ、これはダメだ。


こんなに上機嫌な常盤は嬉しいし、その原因が僕なのもすごく嬉しい。
でも・・・

「椿・・・」

真っ赤なままで常盤を見つめていると、常盤の瞳が妖しく光った。
そっと近づいてくる常盤に耐え切れなくて、僕はギュッと目を閉じると常盤の胸元に顔を埋めた。

何をされるかわかったから。
心臓が壊れてしまうと思ったから。

またしても逃げてしまった僕に呆れる事もせず、常盤はぽんぽんと僕の背中を優しく叩いて許してくれる。

「植物園に行く日、晴れるといいね」

さっきまでの空気は消えて、いつもの調子で話してくれると思わずホッとしてしまう。
逃げていることは承知で、僕はうん、と頷いた。





僕が古泉流に就職して2ヶ月。
僕と常盤が・・・恋人としてお付き合いして2ヶ月。
・・・いわゆる恋人としての接触はほぼない。


勝手に戸惑い、新しい仕事を覚えようと必死な僕を椿がサポートしてくれたり、秦野さんたちと連携を取って仕事を覚えるのに必死で、最初の1ヶ月はあっという間に過ぎてしまった。
それからは余裕ではないけれど落ち着いて仕事ができるようになってからは、常盤との時間も取れるようになってきた。


昼間はお家元と秘書として一線を引いているけれど、夜は常盤の自室でのんびりしてから家に帰るのが日課になっている。
特に何をするわけでもない。
今まで離れていたから、お互いの思い出を話したり華道について話したり・・・世間一般的な恋人同士がするような話はあんまりしていなかった。
それに、触れ合うのも抱擁くらいで、それ以上は・・・そういう雰囲気になるといつも僕が及び腰になって逃げてしまっている。


常盤が嫌いなわけじゃなくて、常盤にもっと触れたいのは本音なんだけど・・・
恥ずかしくて情けなくて仕方ないんだけど、常盤が好きすぎて、あんまり近くで見つめられると呼吸が出来なくなって動悸がおかしくなって倒れてしまいそうになってしまうんだ・・・


一度、常盤にかなり強引に抱きしめられてキスされそうになった時、もう少しで触れるって時に限界が来た僕はブッツリと意識を飛ばしてしまっていた。
そのせいで常盤はひどく落ち込んで、しばらくは抱きしめるのにも、触れてくることでさえ声をかけてからになった。

それはいけないと思って、僕から頑張って触れるようにしているんだけど、やっぱりそれ以上は難しい。
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