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□後編
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常盤と決別して、10年経った。
僕は目標としていた弁護士となり、今は駆け出しとして法律事務所で雇われている。


10年の間・・・一度も常盤に直接会っていない。
テレビや雑誌で見かけると、必ず手を止めてみてしまうけれど。
連絡も取っていない。
僕が携帯番号を変えてしまったから。


結論として、僕は常盤への恋情を捨てられていない。
他の人を好きになろうと何度も努力した。
けれど、その度に思い知らされる。


この人は、常盤じゃない。


自分で呪縛でもかけてるんじゃないかと思うくらい、常盤以外の人を好きになれなかった。
もう諦めかけている。
この想いを抱えて一人で生きていくことを。


弁護士になったキッカケも常盤。
常盤が大変なときに何の力にもなれない自分が歯がゆくて、それで目指した。
常盤への気持ちを上手く昇華できれば、顧問弁護士でも秘書でもなって、今度こそ本当に常盤を支えていこうと思っていたのに。


現実は自分の気持ちひとつままならず、たまの休みもぼんやりと常盤の出ている番組を見ているだけ。

常盤は本当に綺麗で格好良くなった。
和服も板についているし、所作が変わらず美しい。
貫禄も出てきて、華道界のプリンスの名に恥じない美貌だ。

常盤の作品もインターネットだけど見続けている。
あれからさらに洗練されて、色気も出てきたように思う。
常盤の作品を見るだけでドキドキと胸が高鳴ってしまうんだ。


常盤の作品を直に見てみたい。
だけど、怖い。
自分の正直でままならない感情を持て余しているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまうんだ。




僕の習慣はずっと続いている。
小さなスケッチブックを仕事中も持ち歩いて、クライアントとの打ち合わせの合間に思いついたラフ画を描き溜めている。

ラフ画は少しだけ変わった。
以前は、そこにある花をどう表現するかを考えていたけれど、今は常盤を見た日に常盤を思い浮かべて絵を描いた。

ラフ画のタイトルは全て『常盤』
・・・我ながら気持ち悪いと自覚している。

スケッチブックにはタイトルを総称して『tokiwa vol.17』と小さく書いてある。
常盤を題材にしたラフ画は、スケッチブック17冊にも及んでいる。
誰にも見せる事はないから、半ば開き直っている。
今日も3、4枚ラフ画を描いてテーブルに置いた。
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