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□中編
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しばらく会話もなくただひたすら泣いて、ようやく落ち着いた頃、僕は常盤に尋ねた。

「副家元は、常盤が成人したら本当に家元を返還すると思う?」
「しないと思うよ。きっと色々な理由をつけられると思う」

年が若いから、独身だから、まだまだ頼りないから。
僕でさえ色んな理由を思いつく。
交渉に長けた副家元には、未成年の常盤を思いのままに操ることなど容易いだろう。


「古泉流はどうなるの?」
「・・・残るとは思うよ。古泉流の名前だから人は集まってくれたからね。僕も、師範代か何かに名前を変えて残らされると思う」


正当な血筋の常盤を放逐して、他の人間に利用されては困るのだろう。
それは所謂飼い殺し。
ぞくりと背筋が冷えて、常盤のスーツに縋ってしまった。


「な、何か方法はないの?常盤が成人するまで後見人を立てるとか・・・」
「それも話したよ・・・」
「お家元は次期家元の遺言とか残さなかったの?」
「口頭では話したことはあっても、きちんとした形では残ってないみたい。まだまだお家元は若かったし、こんなすぐに、こんなことになるなんて、誰も予測してなかったから・・・」



ああ、世の中は理不尽だ。
せめてあと10年先だったら、こんな現実になってなかっただろう。
常盤も立派にお家元を務められただろう。
何もできないのかとポロリと涙が流れる。


「椿、泣かないで。僕は家元という立場はこだわってないから」
「責任と実力を伴う立場には、ちゃんとふさわしい人間がなるべきだっ。運営や交渉にだけ長けている人がなれる立場じゃないんだ!僕は、古泉流の新しい家元は常盤以外認めない!」

涙を流しながらきっぱりと言い切る。
お願いだから、常盤に諦めてほしくないと、必死に思いを込める。

「・・・僕だって父の跡を継ぎたい。けれど、現状を覆す方法が浮かばないんだ」


ああ、僕がとどめを刺してどうする!
常盤は十分に戦っただろう。
始めから不利な状況で、それでも最善策を模索しただろう。
そんなのよくわかっているはずなのに、どうして僕は考えなしなことを言ってしまったんだろう!



「常盤!副家元が跡を継ぐって、正式に発表するのはいつ??」
「えっと、お葬式と告別式は副家元が喪主を務めて、喪が明けたら正式に発表するって」
「古泉流の喪はどれくらいなの?」
「49日」


猶予期間は2か月もない。
その間に一体何ができるだろう。


「常盤、何か考えよう。僕も考えるから、僕は常盤の味方だから。他にも常盤の味方はいるよ、このことを聞いて常盤の力になる人はきっと出てくる。だから、戦おう!」

必死で言う僕を常盤がジッと見つめる。
決して視線を外さなければ、常盤の両目がジワリと潤んだ。

「椿・・・ありがとう」

ギュッと抱きしめられた常盤を僕も抱きしめ返す。

こんなに清廉でひたむきな人が報われないなんて、僕が許さない。
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