***

□前編
1ページ/9ページ

「お前さあ、何で僕が宿題してるって時に掃除に来るわけ?学校に行ってる間にやっておけよ、グズ」
「あ、いえ、これは坊ちゃまの・・・」
「は?小磯?僕のせいだって言う訳?」
「いえ、そのようなことは」

宿題を片付けている僕の背後で、家政夫の小磯が脱ぎ散らかした制服をハンガーにかけたり、放り投げたカバンを片付けたりしている。
僕が散らかした原因なのはよくわかっていて、イライラと小磯を怒鳴りつけた。


これはいつもの光景。
僕、長谷部俊樹と、父が雇った家政夫の小磯康彦のやり取り。

別に家が資産家というわけではない。
母がいないため、父が不在の間家の家事を行うために雇ったただの家政夫。

確か最初は通いだったはずなのに、父の帰りがいつも遅いため、その内住み込みにシフトした。
どうせ四六時中そばにいるなら、女の人の方がいいのに。
まあ、僕が思春期というのもあって、家政婦が女性ではないのは、我慢しよう。
身長も体重も、ついでに言えば容姿も人並み以下の僕が、成人女性をとやかくできるとは思えないけど。

それから、この春僕は高校生になったのだから、住み込みする必要性も見当たらないのだから、もう一度シフトを変えればいいのに。

小磯は一言でいえばイケメンだ。
25だったか、26になったのか忘れたけど、まだまだ学生に見える、ちょっと甘い感じのする童顔。
家事って体力を使うのか、腕まくりした時やシャツから覗いた筋肉は綺麗についている。
僕には到底持ちえない男らしい体や、女性受けしそうな顔が・・・大嫌いだ。

小磯がここに来た当初は、ガキだったから単純に懐いていた。
小学生だった僕は、兄貴ができたようで嬉しかったんだ。
けれど・・・年々、小磯を見るたびに自分のコンプレックスを刺激されて、小磯に対する言動に棘が入る様になった。

小磯は大人だから、僕の地味な嫌味も嫌がらせも気にも留めない。
とっとと辞めてくれれば、別の人に代わってくれれば・・・僕のコンプレックスはなくなるのに。
だから、今日も小磯に暴言を吐いてしまうんだ。


「坊ちゃま、そろそろ晩御飯ですけど、すぐに食べますか?」
「今日、帰りに友達とファーストフードで食べてきたからいらない」
「え?昨日もそう言ってたじゃないですか。ファーストフードは栄養が偏りますから、頻繁には・・」
「うるさいな!小磯のご飯はまずいんだよ。僕の嫌いなもの絶対に入ってるし」

これは嘘。
僕が嫌いなものを入れているのは本当だけど、食べやすいようにいつも工夫しているし、普通においしいと思う。
そっぽ向いたまま言ったけれど、小磯が眉を寄せて僕の暴言に耐えている顔は想像がつく。

「・・・申し訳ありません。明日は坊ちゃまの好きなものにしますから、家で食べてくれませんか?」
「覚えてたらね。お風呂入ってくる」

僕から折れることはまずない。
必ず小磯が折れて、会話は中途半端に終わる。
僕から折れる必要なんかどこにもないから、そっぽ向いたまま風呂場へ向かった。
当然手ぶら。
小磯が下着やパジャマを揃えて用意してくれるから。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ