短編だったりシリーズっぽかったり

□ぼくたちのなつやすみ 前
1ページ/8ページ

「だーーあっちいい!」
「っちー・・・」

両手に大量の食糧を持って、直哉先輩とオレは先輩の部屋へと飛び込んだ。
締めきっていた部屋は外よりも暑いんじゃないかと思うくらい熱気が籠っていた。

「うおー、クーラークーラー」

慌てて部屋の中に入って直哉先輩がエアコンのスイッチを入れた。

あ、早く冷蔵庫の中に仕舞わねえと、せっかく買い込んだ食糧が。
3日分、しかもよく食べるオレ達の分だからその量は半端ない。
冷蔵庫に入りきるだろうか・・・

で、何でこのくそ暑い中、籠城の構えのようなことをしているのか。
答えは簡単、直哉先輩に誘われたから。
夏は漕艇部の本領発揮と言わんばかりに大会や川やバーベキューや合宿に・・・大学が夏休みに入った途端、バイトもろくにできないほどスケジュールは密に詰め込まれた。
そんな中、盆休みだけは休みになった。



「なあ、雄大。盆休みって実家に帰る?」
「いえ、特に用もないんで」
「そっか、じゃあさオレの家に泊まりに来ないか?」
「え・・・・」
「せっかくの休みだし、食糧買い込んでずーっとイチャイチャしようぜ」

ニッコリと妖しく笑った直哉先輩に、オレは一も二もなく頷いていた。
先輩と付き合いだしてから、先輩の部屋に泊まるのは初めてだ。
しかも盆休みの間ずっと。
何をするのか読み取って、顔が真っ赤になると、直哉先輩は嬉しそうに笑ってキスをした。
甘いその笑顔に心が跳ねて、少しは分かっていたはずの先輩の目論見をまったく考えてなかった。



スーパーの袋を持って台所に向かう。
自分の家ほどじゃないけど使い慣れた場所。
冷蔵庫を開けようとすると、

「あ、雄大待った、ちょっと待った」
「先輩?」

慌てて制止する声に振り返ると、直哉先輩が手招きした。
それに素直に従って先輩の元に向かうと、満面の笑みを浮かべた先輩が、オレに何かを差し出した。

「?なんすか?」
「開けて開けて。雄大のためにすっげー悩んで選んだんだ」
「あ・・・あざっす・・・」

先輩がオレのために・・・たったそれだけで心が震える。
ドキドキしながら受け取る。

何だろう、柔らかいし・・・パジャマ的な?あ、直哉先輩とお揃い?先輩そういうの好きだし。
緊張で指がもつれそうになりながら包みを開けてそれを取り出す。


「・・・・・・・・・エプロン?」
「そう!」


ピラッと広げると、ピンク色のレースだかフリルだかたっぷり使われたエプロンだった。
えっと・・・

「これ・・・誰に?」
「もちろん雄大!」
「・・・ピンクっすね」
「うん、白と悩んだんだけど、雄大可愛いからピンクにした」
「・・・・・・・・フリルっすね」
「可愛いだろ。絶対に雄大に似合うと思って!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレ用?」
「他に誰が着るんだよ?」

直哉先輩の蕩けそうな笑顔が可愛いなーと現実逃避を計ってみたけど、早く着て、と促されて覚醒した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ