短編だったりシリーズっぽかったり
□失恋を慰めたら両想いになった 上
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カヌー部には他にも新入生がいて、驚いたことにそのほとんどが直哉先輩が勧誘した成果だった。
「直哉の笑顔に皆騙されるんだよなー」
「人聞き悪いだろー、後輩が不安に思うでしょうが」
「痛っ、まったく、おまけにイケメンまで釣ってきてるし・・・それはよくやった」
「女の子見に来るかなー、なあなあ、今年からマネージャー入れようよー」
ガヤガヤと賑わう部室で直哉先輩を取り囲んで、数人の先輩たちが楽しそうに話していた。
新入部員は新入部員同士で話をしていて、オレも半分加わっているが積極的には入ってない。
カヌー部は男子だけらしく、どこを見てもむさくるしい。
・・・直哉先輩の笑顔につられたけど、さすがに早まったかも。
目当ては女子じゃないけど、男だらけのむさ苦しい3年間もどうかと思う。
カヌー部に入って数か月。
直哉先輩の言う通り、トレーニングは大変だけどカヌーに乗るのは楽しかった。
バーベキューも楽しかったし・・・1年は火起こしとか焼き係りばっかりだったけど。
人と話すことが好きじゃないオレだったけど、気づけばそれなりに友達と呼べる人までできていた。
愛想もなくて先輩受けも悪いだろうに、特に指摘されることもなく良好な関係を築けていた。
それもこれも直哉先輩が取り成していたくれたからで、そうじゃなきゃとっくに退部していた。
「雄大はちょっと不器用なだけだよ。どんなトレーニングにも手を抜かないし、船体やパドルの手入れは誰より丁寧だし。部室を綺麗に掃除してくれてるのも雄大だろ?皆そういうのって何気に見てるよ。口数が少ないくらい、短所になるかよ」
上手くコミュニケーションを取ることができず落ち込んでいたオレを、直哉先輩は励ましてくれた。
ポロをするときはどうしても普段のコミュニケーションが出てくるから、オレがチームに入っていたら影響が出るかもと、誰にも言えず悩んでいるのを直哉先輩は何故か気付いてくれた。
座りこむオレの前に立った直哉先輩は、乱暴なくらいガシガシと頭を撫でてきた。
「てーか、イケメンなのに話すのが苦手でいまいちモテなくて、未だに彼女も出来ない童貞チームにいるから、雄大は却って好感を持たれてるんだぜ」
ビシッと親指を立てられたけど・・・正直嬉しくない。
「オレは好きな人にハジメテを捧げたいんす。それまではキヨラカでいたいんす」
「ぶはははっ、んなこと言ってたらあっという間に魔法使いだぞー」
敢えて軽く言うと、直哉先輩は心底楽しそうに笑い転げた。
・・・30まで童貞だと魔法が使えるようになるとか・・・そんな茶化し方しなくていいのに。
「そういう先輩はどうなんすか」
「へ?何が?」
「直哉先輩は童貞じゃないんすか?」
「オレ?まあ、オレは彼女いますからあ」
にやにやと笑いながらあっさりと答える直哉先輩に、ズキッと胸が痛んだ。
この頃にはもう直哉先輩への恋心は自覚していて、二人っきりで色々話ができることが嬉しい反面、こうして屈託なく彼女の話をあれこれされる日々だった。
それだけ先輩がオレに気を許していると思えば嬉しいことだけど、苦しいと思うことの方が大きかった。
部活に明け暮れる毎日なのに、なんで彼女が作れるんだろう・・・
結構ハードなこの部活内容で、どうやったらそんな関係を構築できるのか不思議だった。
そう思ったのはオレだけではないらしく、前に先輩たちが話していたのを思い出した。
「直哉あ、彼女の友達とか紹介しろよー」
「今回の彼女も美人だよなあ、どうやってつきあったんだよ」
「あー?紹介してもどうせおまえらじゃ続かねえだろーが」
「こ・の・や・ろおおお、お前みたいな普通メンが何であんな美人とつきあえるんだよ!」
「いててっててて!オレに八つ当たりする前に会話のネタを考えろ!女の子への気遣いを覚えろ!恥ずかしがって優しくもできねえ男なんかに彼女ができるかよ!」
直哉先輩のキッパリと言い切った言葉と態度に、先輩に八つ当たりしていた腕は離れて、そこかしこで拍手が起きていた。
その日以降、部活のこと以外にも女関係の相談事は全て直哉先輩にされることになった。
陰で教祖と呼ばれていたことに、先輩は気付いていたかはわからないけど。