短編だったりシリーズっぽかったり

□失恋を慰めたら両想いになった 上
1ページ/11ページ

季節は春、高校の入学式が終わって少し経った頃。

オレが、恋に落ちた季節。





放課後になると各部の勧誘で賑わうが、オレには関係ないので玄関に向かう。


「そこで帰ろうとしている恐らく新入生の君!」


突然後ろから大声で声をかけられた。
周りを見て他に人気がないので、多分オレのことなんだろう。
無視するわけにもいかず振り返った。

「うわ、君背が高いね!でも帰ろうとしてるってことは部活決まってないんだよね?」

声をかけてきたのはオレより背の低い、多分2年の先輩。
背が低いとはいっても、オレが190くらいあるから、そこまで低いわけじゃないと思うけど。
そして、何よりオレの顔を見ても平然と声をかけてきたことに驚いた。
オレが新入生なのに、どの部からも声をかけられることなくスムーズに帰ることができたのは、きっぱり言い切るけどオレの顔のせい。
常に無表情で不愛想で、怒っているようにも見えるから声をかけられることはかなり稀。

それをまったく気にせずにこやかに笑って話しかけられて、その珍しさと話しやすそうな人好きのする笑顔につられて立ち止まって話を聞く気になってしまった。


「おお、結構筋肉あるな。体力ありそう!せっかくだから運動部に入らない?」


パンパンと体を叩いて確かめられて、明るく勧誘された。

「・・・何部っすか?」
「カヌー部だよ」
「・・・・・・・」

カヌー・・・が何か一瞬わからなくて、ポカンとしていると、先輩はくすくすと笑った。

「うんうん、馴染みないよな。わかんなくて普通だから」

笑われてムッとしてしまうと、カラリと笑って軽い調子で続けられた。

「川で船みたいなのに乗って、オールで漕いで行くの知らない?」
「・・・ああ、一人乗りとか二人乗りとかある・・・」
「そうそう。二人乗りはカヤックな。それもあるけど、うちは一人乗りの方のカヌーが主流かな。スラロームやポロするから」

想像がついて頷くと、嬉しそうに微笑まれた。

「筋トレは大変だけど、夏はめっちゃ気持ちいいしバーベキューなんかもやるから楽しいんだぜ」

オレの反応を前向きに捉えた先輩が、こっそりとオレに耳打ちする。

「カヌーでカッコいい体作ってさ、こう、手際よく火を起こしたりしたら女の子ウケ最高だぜ?アウトドアに強い男ってモテるんだぜー」

それから初めてオレの顔をまじまじと見つめた先輩が、ぶはっと噴出した。

「つっても、君イケメンだからそういう小細工いらないか!てか、さらに武器になっちゃうな!」

ケラケラと笑われて・・・・
何か一人で話しまくって笑いまくって、オレはどうしたらいいんだろう。
不思議と嫌な気持ちはしないけど、口を挟む隙もない。
先輩はさらに楽しそうに笑って、

「まあさ、他に入るとこ決まってないなら体験でもいいから来なよ。写真とかあるから見てもらった方が説明もしやすいから」

ニッと笑って、誘われる。
部活の勧誘だとわかっていたけれど、オレはキラキラと弾けるような笑顔に目を離せなくなっていた。

「入ります」
「ん?」
「カヌー部、入部させてください」

気付けば入部を申し出ていた。
いきなりの入部宣言に驚いていたけど、すぐに笑って手を差し出された。

「オレは2年の浅田直哉」
「1年の大江雄大っす」
「よろしくな」



それが、直哉先輩との出会いだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ