短編だったりシリーズっぽかったり

□失恋したら恋に落ちた
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「うっうっうっ・・・オレの何がいけなかったの・・・」
「・・・はあ」

後輩の部屋でチューハイを煽りながら同じことばっかり繰り返してしまう。
だって・・・

「あんなに優しくしてさ、どんな我儘でも聞いて、毎日電話して愛してるよって言ってたのに・・・何で・・・何でふられるんだよおおおおおっ!」
「直哉先輩、ここあんま壁厚くないんで叫ばないでください」
「ううう、雄大は普段無口なくせにそういうことはきっちり言うのな」

飲み終わった缶をテーブルに置いて、オレに付き合って酒を飲んでいる雄大を睨み付ける。
一応180あるオレよりさらに背の高い雄大。
その背に見合った体躯に男らしく引き締まった精悍な顔立ち。
無口で不愛想だけど、イケメンだと女子からは浮ついてない、落ち着いているという評価がもらえるらしい。

「ぐぬぬ・・・イケメンは男の敵だ。雄大も無口で不愛想をウリにして女の子食いまくってんだ」
「・・・人聞きの悪い」

オレの八つ当たりを雄大は怒りも見せずに往なすだけ。
確かに雄大は女の子を食い散らかすようなことはしていない。
していないどころか、ずっと好きな子がいるらしく一途に思い続けているらしい。
高校の時に何かの拍子で聞いたことがあるが、その時はいつもの不愛想なんか欠片も見当たらないくらい優しい笑顔をしていた。
・・・さすがにあのギャップにはドキッとした。
ずるいよな、いつもは鉄面皮かと思うくらい無表情なくせに、不意打ちであんな笑顔見せられたらどんな女の子だって落ちるだろう?
そんな必殺技があれば好きな子の1ダースや2ダースくらい軽く落とせると思うんだけど、何故か雄大は何年も片思いのまま。

「はあああ、超タイプだったのに・・・黒髪で色白でおしとやかで、ギャアギャア喚くタイプじゃなくてさ、色々気の効く子で優しくて、でも意外と芯のしっかりした子で・・・・うううだから大事にしたかったのに、なのに、なのに〜〜〜」

新しいチューハイに手を伸ばしてゴクゴクと流し込む。
オレの好みを体現したような子で、どんなお願いすら聞いてあげたいと思ったんだ。
なのに・・・

「直哉先輩の良さに気付かないなんて、残念な女っすね」
「こら!あの子の悪口を言うんじゃありません!」
「はいはい・・・そろそろメザシが焼けるっすね」
「おおお〜待ってましたー」

振られたとはいえ、やっぱり好きだったから悪口を言ってほしくない。
きりっと睨み付けると、雄大は溜息をついて立ち上がった。
メザシの焼けるいい匂いに、たちまちぱあっと顔が輝くのがわかった。

「先輩、モロキューとウメキュー、どっちがいいっすか?」
「もろきゅ〜」
「了解っす」

メザシの様子を見ながら冷蔵庫からキュウリを出した雄大が声をかけてきて、オレは素直に返事した。
オレが持ってきたつまみはお菓子とから揚げだったのに対し、雄大は家庭的な料理を作ってくれる。
腹が減ったといえば栄養を考えた手料理が出てくるし、今日みたいに酒を持って乗り込めばつまみを作ってくれるし。
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