短編だったりシリーズっぽかったり

□いとしき愚者よ
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「それじゃ、また明日な」
「はい、お疲れ様っす」

何の挨拶かわからないけれど、社会人として定着してきた挨拶を言えば、祐樹先輩も面白そうに笑って帰っていった。





シャワーを浴びながら昔を思い出す。

元々、俊治先輩とオレは同じ小学校でクラブを通じて知り合った。
面倒見がよくて、運動神経がよくて、すでに男前だった俊治先輩に懐いたオレは、中学に上がってすぐに会いに行った。

そこで祐樹先輩と出会った。
ぱっと見は平凡で、すでに170cm超えていたオレよりも背は低かったけれど、よく笑う明るい人だった。
女関係で問題を起こしやすいオレを、祐樹先輩は何かと世話を焼いてくれた。



「だからな、礼司。彼女がいるのに、他の女のことつきあったらダメだろう?」
「・・・つきあってないっす」
「ええ?だって、さっきの子、二股されたって泣いて叫んでぶっ叩いてたじゃないか」
「オレはつきあうなんて一言も言ってない。勝手に告ってきて、勝手に跨ってきて、殴ってきただけ」
「また・・・お、ま・・・え?あの、経験済み、なの?」
「・・・そこ、食いつくんすか」
「いや、その・・・」

性に敏感な年頃だったし、付き合う=セックスだと思ってたから、告白してきた相手とはすでに経験していた。
一応、浮気はするつもりはなかったから、他の女から告白されても断っていた。
けれど、しつこく好きだと告げられて、断ってもめげない女に疲れて勝手にすればと投げやりになったら・・・襲われた。
それだけ勝手にやらかしたくせに、つきあってる彼女がいるから付き合えないともう一度断ると思いっきり殴られた。


・・・ところを祐樹先輩に見られた。


それから散々だった。
祐樹先輩は未だ童貞だったようで興味津々に聞いてくるし、事情を知った彼女には振られるし。
しかも、オレが二股したという噂が流れてからはもうまともな交際なんかできなくなった。
しょっちゅう女は入れ替わり、ブッキングした女同士が口論となってオレに詰め寄ってくる。


祐樹先輩はオレが問題に巻き込まれるたびに面倒を見てくれた。
時にはオレの変わりに殴られることもあった。
なんでそこまで面倒見がいいのかわからなかった。


「だって、可愛い後輩が困ってたら何とかしてやりたくなるもんだって」
「・・・先輩って?俊治先輩ならわかるけど」
「ああ・・・だから、俊治の後輩なら、オレにとっても後輩だし」

苦しい言い訳のようだった。
この時のオレは、祐樹先輩はオレのことが好きなのかと思っていた。
自慢ではないけど、女からの告白はもちろん、たまに男からも告白をされたから。


けれど、勘違いに気付いたのは先輩たちの卒業式。
挨拶しようと思って先輩たちを探していると、後輩の女の子に囲まれた俊治先輩と、その俊治先輩を泣きそうな顔で見つめている祐樹先輩。
それで察した。
オレは俊治先輩に可愛がってもらっていたから、祐樹先輩もオレの面倒を見てくれてたんだ。


オレの世話を焼いたからって、俊治先輩が祐樹先輩を好きになるわけないと思うんだけど、この馬鹿な人は一途にも思いつく限りのことを実行していたんだ。


あれだけ泣きそうな顔をしていたのに、祐樹先輩は俊治先輩と同じ高校へ進んだ。
なんだそれ、じゃあ何で泣きそうになってたんだ、あんたは。
ホント、馬鹿だと思った。
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