短編だったりシリーズっぽかったり

□臆病者の駆け引き
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夜も遅くなってきて、本日の課題を終えてお風呂でも入って寝ようかなと伸びをしていたところ、呼び出しのチャイムが鳴った。

「・・・・まさか」

こんな夜遅くに部屋を訪ねてくる人物は限られていて、しかもそれがあいつだったら何の用かも予想がついて、ちょっと頭が痛い。
かといって、開けないとそれはそれでうるさい。

以前、ちょうどシャワーを浴びていて気付かなかったことがあり、その時は隣の人から苦情が来て、寮監にも叱られたりで踏んだり蹴ったりだった。



--ガチャ


「・・・やっぱり竜也か」
「直之先輩〜!またふられたー!!」

ドアを開ければ予想した通り、一つ年下の大久保達也の姿。
長身で甘いマスクのイケメンが売りなのに、今は涙を流してオレにしがみついている。

「・・・とりあえず部屋に入って」

玄関先でこんな姿見られたら、たちまち噂が出回っていい笑いものになってしまう。
退屈な寮生活、こんなイケメン後輩が平凡で面白味のないオレにしがみついているなんて、格好のネタだ。
しかも、これがかなりの頻度で行われているから最早知る人は知っている状態なのも頭が痛いところだ。



泣き続ける竜也をリビングに連れていき、インスタントのコーヒーを淹れて手渡す。
ついでにオレの分も淹れてソファにどっかり座る。
オレにつられるようにソファに座った竜也は、涙を拭きながらコーヒーを飲み始める。

「・・・直之先輩、苦い」
「はいはい」

彼女にふられて傷心中だというのに、きっちり要望は伝えるんだな。
いつもは自分で勝手に取って来いと言うところだが、今日ばかりは仕方ない。
砂糖とミルクを持ってきて、竜也のマグカップに入れてやる。
ついでにかき混ぜて軽く息を吹きかけて熱を取って渡してやると、ようやくふにゃっと笑って飲み始めた。
オレはブラックのままで構わないのでそのまま飲み始める。


いつからだったか・・・竜也とは中学から先輩後輩の仲だけど、その頃からイケメンのうえに惚れっぽい竜也は常に彼女がいて、けれど、異様に早い期間で振られてはオレに泣きついてくるのが習慣となっていた。


甘ったるくなったコーヒーを嬉しそうに飲んでいる竜也を横目に見てオレなりに考えてみる。
顔は間違いなくイケメンだ。
甘いマスクで微笑めば落ちない女の子はいないと思うくらい。
身長は馬鹿みたいに高い、いや、オレが平均より低いことをやっかんでるわけではなく、年下のくせにガンガン伸びやってこんちくしょう。
・・・じゃなかった。

そんなイケメンなくせに、意外に甘党でコーヒーは甘くないと飲めないとか、実は甘えん坊で人目がないところではくっついてくるとか、それはまあ、あれだろ、ギャップ萌えだろ?
性格は・・・悪くないとは思うんだけどな。

以前、彼女と一緒にいるところを見かけたことがある。
彼女が躓いても醒めた目で見たり、手を繋ごうとするのを振り払ったりしていたけれど、あれは外で人目があったせいだろうし。



そんな竜也なのに、一月もまともに持った試しがない。
早いときは三日で泣きついて来やがったこともあるくらいだ。

ったく、何で竜也はほいほい彼女ができるんだ。
オレは未だに彼女の一人もできたことがないのに。
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