短編だったりシリーズっぽかったり
□誰よりも先輩を 2
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最近は屋上に出る事はなくなった。
最近雨が多いから・・・だ。
だから、別の場所を探した。
誰にも・・・決して誰にも見つからない場所を探した。
学校内に誰も知らない場所なんかあるわけない。
けれど、誰も足を向けない場所ならたくさんある。
ここ、第三化学準備室もその一つ。
物置と化して荷物だらけの部屋は、誰も足を向けることも無い。
物が多すぎてタバコを吸うには細心の注意が必要なのが難点だが、誰も来ない場所というにはこれ以上ないほど適していた。
荷物に埋もれていたソファを発掘し、適当に物を退けて寝そべればちょうどいい。
今日も軽くタバコを吸ってからソファに寝転がり、まぶたが降りるままに目を閉じた。
--キュッ・・キュッ・・キュッ・・・
遠くから足音が聞こえて、ゆっくりと意識を浮上させる。
ここ数日雨が降り続いた湿気のせいか、独特の足音はやけに大きく聞こえる。
その足音が、まっすぐこちらに近づいている。
他にも準備室は多くある。
その足音の目的がここだとは限らない。
飛び出したくなるのを堪えて、体を起こしてソファに座りなおす。
気を落ち着かせるようにタバコに火をつけたところで、第三化学準備室の扉が開けられた。
躊躇う事も迷うこともない音に、それが誰かわかってしまった。
「金山先輩、やっと見つけた」
一番会いたくない相手。
2年の癖にテニス部のエースで、顔の造作がよくて、人当たりもよくて、男子校だってのにファンクラブまである、まるで欠点の無いような男、青柳。
そいつが躊躇いも無くオレの傍へやってくる。
全身で拒絶を表して青柳を睨みつけるが、まったく意に介してないようだ。
青柳はオレの目の前に立つと、爽やかな笑顔で微笑みかけた。
その笑顔にぞっとする。
「最近雨続きですからね。今まで屋内でサボっていた場所にもいないし、新しい場所を発掘したんだろうと思ってずっと探してました」
やっぱり他の場所は把握されていたらしい。
だからここを探し当てたのだが、また新しい場所を探さなければ・・・
タバコの煙を吐き出して同時にため息もつく。
こいつが傍に来ると、恐怖や怒りや憎悪がグチャグチャになる。
殴っても蹴っても懲りない青柳に、逃げの一手しか方法が浮かばないのも情けない。