短編だったりシリーズっぽかったり

□誰よりも先輩を
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定位置である屋上のフェンスに寄りかかり、威勢のいい掛け声を遠くに聞きながら深く吸い込んだ煙を吐き出した。
今日は天気もいいし、このままここで昼寝でもしようかと考えていると、屋上の扉が開いた。

「やっぱりここにいましたね、先輩」

ここ最近やたらとよく聞く、耳触りのいい声に不快を覚えながら視線だけで相手を見る。
オレの不機嫌な視線をものともせず、ずかずかと近づいてくる。

高校2年にして先輩の3年を押しのけてテニス部のエースとなった男、青柳。
スポーツをしているだけあって、爽やかな顔面はこの学校内でもよくもてているそうだ。
例えここが男子校であっても。全寮制の学校であっても、だ。
確かにツラはいいし、礼儀も正しい。

けれど、誰かと群れるのが嫌いなオレはこんな目立つ後輩に声をかけられること自体迷惑で仕方ない。


「今授業中だろうが、何サボってんだよ」

何を言ってもどうせ立ち去らないことを知っているから、嫌味だけ言って後は視線を戻して煙草を銜え直した。

「金山先輩だって授業中でしょう?」

にっこりと爽やかに嫌味を返される。
面倒くさいからもう何も言わない。
青柳を丸っきり無視しながら、どこかのクラスの体育の風景に目を落とす。


あー、無駄に元気だなー。


退屈に任せてその風景を見ていると、隣で溜息をつかれた。
だから、暇ならとっとと立ち去って真面目クンらしく授業に戻りゃいいのに。

「金山先輩って、本当に格好いいですね」
「ぶほっ・・・ごほごほっ」
「わ、先輩大丈夫ですか?」
「さ、わんな!」

突然の不意打ちに煙が変なところに入って噎せていると、背中をそっと撫でられた。
やけに熱い掌を叩いて避ければ悲しそうな眼をされた。

間近に距離を詰められた青柳から体を離し、

「何なんだおまえは」


これだけあからさまに嫌な顔をしているのに、何故こいつはこりずにやってくる?


「だって、先輩本当に格好いいんですよ?この学校で密かにファンクラブだってあるんですから」
「・・・やめろ、気持ち悪ぃ。そういうのはそういうのを喜ぶやつらとやれ」

全寮制の男子校だから、偏った恋愛をしているやつらが多いことは知っている。
そういった恋愛を受け入れられる奴同士でやればいいと思うけど、自分は男同士なんて気色悪くて考えられない。
思いっきり顔をしかめれば、青柳はシュンと顔を暗くした。
なんだ、こいつもそういったクチか。

「おまえもファンクラブとかあるんだろ?そういう言葉はそういうやつらに言ってやれ」


だからオレに係わるなと言外に含めて制服から煙草を取り出して火をつける。
一口吸ってゆっくり吐き出すのをじっと見つめられて、その視線に鬱陶しくて睨み付ける。

「煙草なんて、体によくないしオレは好きじゃないですけど、金山先輩が吸うとすごく色っぽくていいものに見えてきます」
「・・・・・・・・」

気色悪くて鳥肌が立った。
今までどんなやつが相手だろうと背中を見せることなんかなかったが、こいつだけは全力で逃げ出したくなる。
またしても近づいている青柳を睨み付けてたが、嬉しそうにニッコリと笑われた。

「おまえは一体何がしたいんだ」


テニス部のエースが不良と仲良くして、メリットどころかデメリットしかないだろうに。
それとも何か用事があるんだろうか。
だったらとっとと済ませてほしい。

近づきすぎて相手の息遣いさえ聞こえそうで、気持ち悪くて青柳の胸を押すけれどきちんと鍛えられた体はびくともしなかった。
それにまた苛立って、舌打ちをして視線を外した。



結局、青柳はその授業が終わるまでオレの隣で何をするでもなく、そこにいた。
次は別の場所で時間をつぶすことにしよう。
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