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□アドベント〜待降節〜
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キャンドル1本目 〜大野&海江田編〜

この道にハマったのは姉のせい。
けれど今は姉に感謝すらしている。
同士なんかできないと思ってたけど、苦労して入った男子校にて運命の出会いがあった。

「・・・なんて言うと大げさかなあ」
「どうかねえ、オレは大野と会えて嬉しかったけどねー」
「オレもだよ!海江田に会えたから日々の学校生活に張り合いがあるよー」
「だよなあ。苦労して勉強して入学した甲斐があったよ」
「オレもオレも。海江田に会えたことを思えば、受験勉強しまくったのもいい思い出だよー」

恥ずかしいやらむず痒いやらのセリフを言い合っているけど、オレも海江田も薄い本から目を離さない。

結構頻繁に行われている『読書会』、という名のBL本鑑賞会。
どちらかというと海江田の家で行われることが多い。
オレの家で行うと、高確率で姉が乱入してくるからというのが主な原因。

こう見えて、海江田は顔立ちが整っている、背も高い、何気に頭もいい。
オレのようにすべてが平凡の極みの腐男子とは違う、イケメン腐男子に姉が興奮したんだ。
ああ、せめて朝比奈みたいに頭がよければ、面白味のないザ・平凡腐男子、なんて姉にけなされなかったのに・・・


入学当初は当然のことながら腐男子であることは隠していた。
警戒されたら苦労して入った意味がなくなるからね。

だから始めは一人で休み時間や放課後をネタ探しという名のウォッチングをしていた。
やはり探せばカップルはいるわけで、ポイントポイントで観察をしていると、よく会うのが海江田だった。


「・・・君さ、最近よく会うよね・・・しかもこういう場所で」
「ああ、うん、そうだね。ちょっと目的があるからなんだけど、君も?」
「君にいう必要ないよね。じゃあもう行くから」
「あ、うん・・・」

最初に交わした会話はこれ。
やらたと海江田に警戒された。
オレはやましいことをしてるって自覚もあったから強く出ることができずに頷くしかできなかった。

そんなことが2度や3度じゃ済まないくらい重なると、海江田が目に見えて苛立っていた。
顔立ちは整っているし、もしかしたら誰かと逢瀬をしようとしているのをオレが邪魔をしてるんじゃないかと心配したけど、どうもそうじゃない。
不思議だな、と思っていると、しびれを切らした海江田が再びオレに突っかかってきた。


「あのさ、もしかして君ストーカー?そんなことして楽しい?」
「えええ?ち、違うよ!?オレはその、趣味で・・・」
「趣味?放課後人目を避けて物陰に隠れること?」
「えっと・・・うん・・・傍から見たらそうかも・・・いや、でも違うんだけど」
「じゃあ、何?」
「え・・・そ、そういえば君こそ何してるの?誰かと待ち合わせかと思ってたけど、そうでもなさそうだし」
「は?オレは・・・・・」

奇妙な沈黙。
カサ、と足音がしてひとまずオレ達は身をひそめた。
そっと覗けばお目当てのカップル。
片方は明るくて爽やか系なイケメン君、もう片方は背も小さくて華奢だけど、顔立ちは平凡、集団の中にいればすぐに埋もれてしまうほど地味な顔立ち。
けれど、イケメン君を見つめる瞳はキラキラしていて頬っぺたはピンクに染まっている。
イケメン君も平凡君を見る瞳は優しくて、付き合いたてのような初々しいオーラが見えるようだ。

これだ!
これを見たかったんだよ!

「よかった〜、上手くいったんだ」

自分のことのように嬉しくて思わずつぶやいた。

「ああ、平凡君が泣いて逃げ出したときはどうなるかと思った・・・」

オレの言葉を聞いて隣から安堵した声が聞こえた。
そして、え?とお互い顔を見合わせる。

「もしかして・・・腐男子・・・?」
「え?・・・君も・・・?」

一気に和解した瞬間だった。


「ゴメンな、大野。オレてっきりストーカーかと勘違いしてたんだ」
「いやいや、やっぱり怪しいもんな。ゴメン、オレもちょっとだけ海江田のこと怪しんだ」

すぐにお互いの事情を確認して、やはり間違いなかったことを知って改めて自己紹介した。
警戒されて硬い対応をされていたのが嘘のように優しく笑った海江田に、オレも嬉しくて笑い返した。

「海江田も平凡受けなんだ、オレもオレも。だからさっきの二人はストライクだったよ〜」
「オレはどちらかというと総受けだけどね、今気になってる総受けになりそうな物件があるんだ。まだ確証はないんだけどね」
「え?なになに?オレも知りたい!」

話してみれば結構重なるストライクゾーン。
一気に盛り上がって、それまでのぎこちなさなんかあっという間になくなった。


2年に進級して同じクラスになってから、さらに一緒にいることが多くなった。
親友と言っても差支えないくらい仲がいいけど、それはさすがに恥ずかしくて口に出したことはない。

「どしたの?大野」

手が止まっていたオレに海江田が訊ねる。
たまに暴走するオレを止めてくれて、呆れず友人をしてくれる海江田。
どちらかと言えば冷静な海江田に、言いたくてたまらなくなった。

「うん、海江田に会えて、ホントに感謝してるんだ。これからもよろしくな、親友」
「へ・・・?」

鳩が豆鉄砲を食ったような。
ポカンとした海江田が新鮮で笑みが浮かんだ。
みるみる真っ赤になった海江田に、わざと近づいて目を合わせる。
うーうー唸っている海江田が、オレにちらっと目を合わせて、やがて溜息をついた。

「オレも大野に会えてよかったと思ってるし、親友だと思ってるよ」

真っ赤だったけどきっぱりと言い切った海江田は男前だ。
そして言われる側になると、恥ずかしさが半端ないことを知った。

「大野、顔真っ赤」
「・・・海江田だって」

しばし顔を見合わせて、ぷっと吹きだした。

別に何でもない日だけれど、この出会いを感謝しよう。
誰に感謝するわけでもないけれど、それでもこの喜びを伝えたい。

この人と出会えてよかった、と。
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