ツキウタ。短編

□鳥籠B(春葵)
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年中組は日曜日だというのに一日中働いていた
そして、その日の締め昼過ぎからのは写真集の撮影だった
グラビ、プロセラの合同写真集で、他の雑誌ではなかなか出来ない一人ひとりにじっくり迫る撮影で空いてる時間にバラバラに撮っていた
特に年長組は一人ずつの撮影をしており、ツーショットなどは全員集まった時にさっととるらしい
得意な陽はスムーズに終わったものの夜は緊張でガチガチだったそれを見越して年中組では一緒に撮影したのだった
4人で談笑したり、それぞれの雰囲気を見ることで少しは落ち着けたようだ

思ったよりは早めに終わったから夜と葵はちょっとしたお菓子作りをして勉強会をしようという話になった
もちろん、陽と新も食べるところから参加する

作ったのはクッキー
簡単だし、すぐに出来るから
焼いてる間に紅茶を入れたり、テーブルを片付けたり

出来上がるとテーブルを4人で囲む

「やっぱり上手いな」
「だな、さすが女子力が高いふたりは違うな」

新と陽が褒めてくれるけど嬉しいかは微妙
夜も言ってたけど、美味しいって喜んでもらえるのは嬉しいし作りがいがあるけど、女子力が高いは褒め言葉なのだろうか、と思う

悪口じゃないし、少なくとも女の子は喜ぶのかもしれないけれど
可愛いよりかっこいいが嬉しいようなそんな気持ち

夜と一緒だから、いいかとも思うけれど
料理なら始さん、カレーだけとはいえ陽だってする
年長組の皆さんは紅茶を容れるのが上手なのにそれは女子力とは別なのだろうかと思う

....紅茶

紅茶を思い浮かべると春さんも連想してしまう
ずっと憧れていて、いつしか別の意味の憧れにもなり、そして両想いになり..
でも、最近は怖いと思うこともある
愛してくれてるのはわかる、だからこんなの贅沢だと思うけれど、やっぱり怖いと思うところがある

「葵?」

夜に呼ばれてはっと気付く
3人から見られてたことに

「最近、おかしいよ」

心配そうに夜が俺をじっと見つめる
恥ずかしがりな夜にしては近い距離
それも気にしないほどに心配させてしまっている、んだ....

「葵は溜め込むタイプだからな」

「悩んでるんならいつでも相談してよ」

真剣な新、中和するようにわざと明るく笑う陽

でも、俺にはみんなに相談したいことなんて....
そう、悩みはあるけど俺の中の問題で

「春さんか?」

新はやっぱりすべてを知ってる
この状況だし、夜と陽ももしかしたら何か知ってるのかもしれない

「....ありがとう、何も無いよ
春さんも、愛してくれてる」

「じゃあ何で、オフの日はずっと1人きりで春さんの部屋にこもってるんだ?
何で春さんの部屋から出る時は声が枯れてたり、やつれたり、春さんに呼ばれる度に怯えてんだよ!!」

感情を表に出すのが苦手な新が大声で怒鳴るように、叫んでいた

「あ、らた....」

必死に隠してるつもりだったのに、新には全部バレていた
隠し事はあまり得意ではなかったみたいだ

何だか泣きそうになる
そんな場面じゃないのに
新が春さんを誤解しているかもしれないからそれを解かないと....

「楽しそうだね」

優しいようで温度のない冷たい声
後ろから聞こえて振り返ろうとしたら、それより早く頭を押さえつけられた
腕で頭を拘束され、目の前は真っ暗になる

「すごく楽しいですよ」

頭の上から降ってくる
こちらはさっきとは逆の温度がないようで強い怒りを秘めた声
そこでようやく新の胸に顔を埋めている状態だと気づく

「俺と陽は葵と夜の手作りお菓子好きなので」

強い緊張感に金縛りのような感覚に勝手に陥っていたけど、それどころじゃない

「葵君に用があったんだけど、その様子じゃダメそうだね」

「見ての通り取り込み中です
これから年中組はお菓子と紅茶で疲れをとった後、葵王子を教師に勉強会を行う予定なので今日はお貸しできません」

新と春さんに喧嘩して欲しくないのにこのままだと溝が深くなっていく
俺はそれが嫌で必死にもがこうとするけど、その手も誰かに抑えられている

「そういえば、葵ちゃんは明日の午後は仕事がないから夜とご飯作るって言ってたよな
夜は仕事から寮に直行だから、学校帰りは俺が買出し付き合おうか?」

覚えのない約束、タイミングの悪い誘い
俺の心臓はいつもよりも早く脈を打つ

「それで俺が料理を教えた後は葵が俺に勉強を教えるって言ってたけど、明日も新と陽が来てもいいよね」

するすると俺のスケジュールが埋まっていく
ここでようやく俺はみんなの意図に気づく
俺を春さんと2人で合わせないようにしてるんだって、

「葵君は人気者だから仕方ないね
俺の用事はいつになるやら」

笑っているような声色
それを最後に足音が遠ざかっていく

「葵....俺がいるから....王子は守られてろ」

新の縋り付くような声
しかし、顔を上げるとそこにはいつも通りの新、夜、陽がいて
いきなり口にクッキーを入れられ、紅茶を夜に注いでもらって、勉強会もそれなりに真面目にして、寝るときは新の部屋に掛け布団や毛布や座布団なんかを持ち寄って雑魚寝をしたのだった
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