ツキウタ。短編

□鳥籠(春葵)
1ページ/2ページ

今日は学校も仕事もなく、珍しく一日休み
学校の予習、読みたかった本を読んだり、部屋を片付けたり、テレビを見て勉強したり、色々したいことやするべきことがある
しかし、俺は一人で春さんの部屋にいた

俺と春さんは付き合っていて、恋人だ
春さんのことはずっと尊敬していて、憧れていて、はっきりしたきっかけはなく気がついたら恋をしていて


だから両思いになれて幸せだ
でも、最近は少し春さんの心配症に困ることもある
今日の午後、二人で出かける約束をしていたから「お迎えに行きます」と言うと
「一人で来るなんてダメだよ、誰が葵くんを狙ってるかわからないんだから、俺の部屋で待っていて」

そう言って長い鎖を足につけられベッドと繋がれ、服を脱がされバイブを穴に入れてから出ていってしまった

最初はこうじゃなかったけど、心配症がエスカレートしてここまで来ている
少し怖くもあるけど、悪気がないことはわかってる

周りもみんな気にしてくれていて特に新もあんまり酷ければすぐに言えと言われてる
年下の二人にも不安そうに聞かれるのが申し訳ない

出ていく前に春さんが本やDVDを置いていってくれてるから退屈はしないけど、出来れば勉強道具を部屋から持ってきたい
鎖はベッドの端を少し持ち上げて、引っ掛けてあるのを解く
春さんらしくない、簡単に自由になれた
バイブは何故に入れられたかは分からないけど作動しないなら少しくらい誤魔化せる
下手に抜いて、それがバレたらどうなるかわからない
鎖はズボンの中に入れて腰のあたりで巻けば服に隠れて見えない
元々この時間はみんな仕事で共有ルームには誰もいないだろうけど、できるだけ隠して外に出たい

準備が出来てようやくドアに行こうとするとちょうど部屋の真ん中に来たあたりでびくり、とした
中に入れられたバイブが動き出した

隠しカメラで見ていたかのようなタイミングだと思って周りを見たけど、ここは春さんの部屋だからそれがあっても俺から何かを言うのはおかしい

俺は諦め混じりに探すのをやめたけど、外に出ようかを躊躇した
見られているとしたら出たら後で何をされるかわからないし、それにバイブが動いてる状態で誰かに会えば....

でも、今は誰もいないはずだから立っていられるレベルの振動の内に行くほうが....
時間が経てば収まるかもしれないけど、時限式で作動したなら更に強くなる可能性もある

ごちゃごちゃ考えても、春さんには勝てないことはわかってるし、俺は覚悟を決めてドアに一歩進む
そしてまた一歩と進んだ時にバイブの振動が強くなる

やっぱり見られてる
これなら覚悟を決めていっそすぐに出るべきだった
また足を止めてしまって後悔した
バイブの振動が続く中、一歩出せばさらに自分自身で起こす振動で感じることになるだろう
ツキノ寮の部屋が狭ければよかったと初めて思った

喘ぎ声が出そうになるのを抑えて急いでドアに向かうけど、また失敗した
まだ強くなるとは、少なくともここまで強くなるとは思ってなかった
俺はドアの前で膝が折れたように前に倒れた
強くなりすぎた刺激に耐えきれずにイッてしまった

自分のことながら情けない
小さな機械に負けて部屋から出ることも出来ないなんて

「う....あぁっ」

床で横になってこれに耐える
もう少し
あと少し慣れたら自分でバイブを抜けばいい
自分で抜かないように、と言われていたのが頭をよぎる
ここまで来たら今更ではあるけど、どんな罰を受けることになるか想像するのも怖い

それにここまでして取りに行く理由もない
これなら大人しく本を読んだりしておけばよかった

そんなことを耐えながら考えた

♪〜窮屈な鳥籠 嫌いじゃないけど〜♪

いきなり聞こえた声に瞬間的に恐怖する
とっさにドアに目を向ける
でも、そこには誰もいなかった
バクバクと今にも破れてしまいそうな心臓のあたりに手を当て、自分で自分を落ち着ける
歌いながら入ってきたらそれはそれで怖いと、自分自身に冗談のようなことをいい、スマホを取り出し電話をとる

「..はる、さん....」

喘ぎを隠そうと思ったけど、うまく隠せなかった

「葵君、そのまま待っててね
もう外に出ようとなんてしちゃダメだよ」

背筋がぞくりとした
やっぱり見ていたみたいだ
その声はとても穏やかで優しかったが、これはとても機嫌がいい時と悪い時に出る声だと知ってる
この状況で前者であると推測するほど前向きじゃない

「....はい」

ここで余計なことは言えないその威圧に勝てずにそれだけを返した

「早めに帰るからね」

そう言って電話が切れた
撮影が順調なのか、早く終わるように頑張るという意味かはこの際置いておく

春さんの「そのまま」が何に対してであるか
床の上で寝転がっていろという事か、ただ部屋の外に出るなと言うことか、俺の行動を予測してバイブを抜くな、の牽制か....
どれであっても怖い
一つ目は俺が身体を痛めるだけだから違う
二つ目は直接言われたけど、強調の意味があり得る
三つ目は春さんであれば有り得る

でも、この予想はしたところであまり意味がなかった

動けない
こんなに初歩的な問題に直面するとは思わなかった
寧ろ、気を抜けば戻るどころかこの小さな機械に身をゆだねてしまいそうだ

「はぁ、ん....あ」

既に快感による涙がボロボロこぼれている
声も抑えられずに勝手に出てくる

ガチャッ

「ただいま、葵君」

にっこりとした笑顔でそう言うと後ろ手に締めて、鍵を締めた
荷物をいつもの場所に置いてから俺の元に来る

「とりあえずベッドに戻ろうか」

そう言って春さんは俺を拾うとベッドへと連れていってくれた
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ