ツキウタ。短編

□びーすとますたー(海夢)
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*暦*

ツキノ寮のみんなはセカンドシングルというのを出している
順番に出していて、既に発売された人と、もうすぐ発売の人でタイムラグがあるけれど、そのあたりはさっきの表現でも問題ないでしょう

ちなみに、今私と一緒にテレビを見ている文月海さんは発売されたばかりだった
前の曲は切ない話だったけど、今回は好きな人とのきっとハッピーエンドな話
そして、もう一曲は優しい海さんとは別に我慢してる海さんがいるという曲
前の曲とはとても対照的なようで、どちらも言いたいことが言えないし、やりたいことが出来ないと言ってるようにも聞こえる
公私は分けられるタイプだろうから私へのメッセージなんて自惚れたことは言わないけど、これを心から歌っているならやっぱり海さんはいつも我慢してるんじゃないかと思う


*海*
彼女が遊びに来ていて、とりあえずのんびりとテレビを見ていた
画面の中では隼と始がクイズでひたすらに答えている
この二人はもう少し加減や限度を知るべきだという程に
俺は勉強が不得手という程ではないがそれでも理解出来ない
たまたま撮影であった時に恋と駆が今日はこの番組を見ると話していたけれど、いつもよりも早く初級の問題が終わっているためあの二人には序盤から暗号問題に聞こえるんだろうななんて思う
それでも始の活躍を見たいがためにあの二人はきっと最後まで見るのだろうから慕われている、と思う

俺もどちらかといえばここの弟達には慕われているのだろう
涙も郁も夜も、分かりにくいけど陽も

そして、何故か彼女である暦からも慕われている、
一回りどころか俺と比べてかなり小さなこの少女は俺を彼氏と認識しつつも兄のように慕うのだから困ったものだ

年下であるが大差無いというのに祭りなんかではいつも兄妹に見られる
周りから見た認識も俺からの認識も一致しているが本人は無自覚なのだ
本人が童顔であるのも理由かもしれないが、振る舞いや話の内容も年齢不相応なのだ
ある程度は仕方なくもある
病弱で学校を休むことが多かった彼女は人付き合いは苦手で、世間知らずなところがある

そんなところも可愛らしくて好きなのだが、困ることとしては手を出しにくい
絵面での話をするとキスをしただけで犯罪のようだと周りからは言われた
抱きしめれば兄妹だから一周回ってセーフとかなんとか....

俺も年頃だからもっと先もしたいわけだが、それはできない雰囲気がある

しかし、そんな俺の心を知ってか知らずか暦は先程から俺をちらちら見ている
無意識か盗み見てるつもりかわからないけど、さり気ないようで丸分かりで、こういう拙いところも子供っぽくて可愛かった

これは何かを言いたい時によくやる仕草だが、今は何を言いたいのだろうか

彼氏といるのに他の男が出ている番組を見ているのが気まずいのか、甘えたいのか....
*暦*

何をどう我慢しているか、そのヒントは貰っていた

その日、幸か不幸か年長組の海さん以外がいた

これは聞いてみるしかないと思い私は思い切って聞いてみた
すると始さんと春さんは紅茶を飲んでいるのに蒸せてしまい、隼さんはいつも通りの笑顔だった

「海は甘やかしたり、過保護なところがあるからね」
そんなことを言いながら隼さんは面白そうに私を見た

「こんなとこを聞くぐらいだからな..」
始さんは困ったように言う

「でも、いつも以上にお洒落をして誘惑してみるのもいいかもね」
なんていたずらっぽく笑って春さんが言ったところに新さんが帰ってきた

「だったら俺が練習相手をしてやろう」なんて新さんが言ってアイアンクローをされたのは驚いた

話を長々としすぎました
行動あるのみ!!
私は思い切って海さんに抱きついてみました

*海*

暦はやっぱり甘えたかったらしい
寂しかったのだろうか、そう考えると頭を軽く叩く

すると暦は涙目で見上げてきた
気弱で病弱で人見知りな彼女だ
学校でいじめられたりでもしたのだろうか
相談したくてもなんて言えばいいかわからずちらちら俺のことを見ていたのか
それで急に甘えだしたのか....

*暦*

目を潤ませて、上目遣いが効果的だとみんなから教えてもらったけど、心配そうな目で海さんから見つめられる
そして何故か今は見つめあってる
違う、何かがおかしい..
どこを間違えたのだろうか..

これもダメなら次の作戦
押し倒すしかない!!

私は体格の差があまりにもある海さんを押し倒すために手のみならず全体重でぶつかってみた

*海*

暦が勢いよく俺に身体をあずけてきた
相当辛いことがあったのだろうか
俺にも言いにくいほどのことが....

こういう時はどうするべきなのか..

*暦*

こうなれば、教えてもらったけど最終手段を使うしかない

「海さん....抱いてください」

そう言って海さんを見ると数秒遅れてぎゅっと抱きしめられた

*海*

唐突な暦の言葉に固まった
しかし、あの暦だ
まさかそういう意味で言っているはずがない
悩みを相談できないが心細さを埋めるべく抱きしめて欲しいに違いない

*暦*

作戦がうまくいかない理由がさっぱりわからない
結局すべてがいつも通りで、なんて思ってると携帯がなった
私と海さんのがほとんど同時に
作為的なタイミングに目を合わせるとそれぞれ通話ボタンを押した

「もしもし....」

「どう? 作戦の方は」

楽しそうな声で聞いてきたのは春さん
やはり、というべきか..それならあちらは隼さんだろうか....

「全然です、全滅です」

あははは、と楽しそうな笑い声が響いた

「うん、そろそろ全滅する頃だって隼も言ってたよ」

私の中で怒りに似た何かがわく
わかっててアドバイスしたのか

「大丈夫だよ
そろそろ海の方も終わるみたいだから切るね
頑張って」

ツーツーツー

なんだかわからないまま電話が切れた
通話時間の表示された画面を見つめる

*海*
電話は始からだった
内容としては暦を心配しているようだった
無自覚なセクハラを受けつつ暦が懸命に俺のための作戦を考えたとか..
どの作戦も俺は勘違いしていたようだが...
背後から聞こえる魔王様の声にやはりお前も関わってるのかと思いつつ始の話を聞いた
始が電話したのは隼と会話させないためなんだろうな、なんて思う
子供や動物に優しい始は暦もそのくくりでみているようで今回もその甘やかしだろう

電話を切り暦を見ると同じ機種なのに何故か大きく見えるスマホで電話をしていた
しかし間もなく通話は終わり画面を見つめる
俺は少し迷いつつ暦の頬に触れると目線を合わせくちづけた
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