Chasing! ブック
□10
1ページ/1ページ
「以上、今日の練習メニューだ。新井は新入部員にメンテナンスの指導を宜しく頼む」
「はーい、了解で〜す!」
「では解散!」
今日の予定は朝は部活、夕方からアルバイト。という事で久しぶりに朝礼から顔を出していた私に福富から指令が言い渡された。
「さて、じゃあ一年生の中でメンテに不安が少しでもあれば私の所に来てね。あとできると思っていても結構見落としとかあるからそこら辺踏まえて集まるよーに!」
「おめェ、それ全員集まれって事じゃねーのかァ?」
「ん――そうとも言うね」
隣に並んだ靖友に的確につっこまれ、素直に答える。
正直経験者が多く集まる常勝校箱学自転車競技部にはプライドが高い子も少なくない。それに女の私が上から言ったって聞く耳持たないから多少趣向を変えて言ってみたのだが、
「おいオメーら!ボサっとしてねーでさっさとチャリ持って来い!」
靖友の激で慌てて散る一年生に思わず苦笑いしてしまった。さすが上級生、しかもレギュラーともなれば威圧感が桁違いだ。
「あんたの顔が恐すぎてみんな散って行ったね」
「るっせーヨ」
コツンと靖友の拳が私の額に当たる。軽く打たれたから全然痛くないけどそれとは違う熱が額に集中する。
「ご、ごめんごめん。気にしてるんだよね、靖友なりに」
「ぜってー謝ってねェだろ」
「わぁ、やっぱバレてる?」
「おい、お二人さん。朝っぱらからイチャついてると、免疫のない一年生が戸惑っちまうぞ」
気が付けば背後に新開が居た。しかもまたいつものお決まりのポーズをお見舞いされた。
ほんと、新開のこのポーズなんとかならないのかな。どうしようもなく新開を打ちのめしたくなるよ。
「新開こらてめェ、誰がイチャついてんだよ!このボケナスッ!!」
「まあまあ靖友。おめさんの顔が恐いのは仕方がないが、あんまり一年生をいじめるなよ?」
「いじめてねーよ!言い掛かりつけんな!」
いや、言い掛かりでも何でもないんだけどね。現に一年生達が物凄い勢いで自転車取りに行ったし。なんてのはさすがに靖友も傷つくから言わないけど…、
「オレの顔恐いって顔に出てるヨ、空ちゃん」
「えッ!?」
「やっぱ今の図星ィ?」
「ちかッ!顔、近いッ!!」
「え――――何ィ?」
ずずいとしたり顔で顔を覗かれ靖友との距離が近くなる。その時、ふと一週間宣言初日の時のキスしようとした靖友とかぶってしまい、
「〜〜〜〜ッ!靖友のバカァ―――ッ!!」
「ぶへァッ!ってェ―――!」
思わずグーで靖友の顔面を殴り飛ばし、脱兎のごとく逃げてしまった。
―――――――………
「今のは靖友が悪いと思うぞ」
空ちゃんにまさかのグーパンチをお見舞いされたオレは、情けない事に尻餅ついて空ちゃんに殴られた顔面を抑えていた。
「ってーなクソ。んなこたァおめェに言われなくてもわ――ってるヨ!!」
空ちゃんの反応が段々イイ方に傾いてたからって今のは調子乗り過ぎたなァ。クソ、んな事で今までの努力が無駄になんのだけはごめんだゼ!
まだ顔は痛ェ。絶対赤くなってやがる。だがそれよりも今は逃げた空ちゃんを追いかけるのが先決だ。
荒北
福ちゃん!
追いかけようと立ち上がった時、今の一部始終を見ていたのか神妙な顔した福ちゃんがオレの後ろに居た。
…空ちゃん追いかけてーけど福ちゃんは許さねーだろォな、なんてオレの考えは呆気なく覆った。
十五分だ
あ?
十五分で戻って来い。いいな?
……十五分て…、空ちゃん追っ掛けてもイイっつー事だよな!
「悪ィ福ちゃん、オレ行ってくるわ」
「ああ」
頑張れよ、靖友
駆け出す直前振り返ったオレに新開はいつものポーズをやりやがった。オレのモチベーション下げるような事すんじゃねーヨ!
「だからそのポーズやめろっつってんだろーがァ!!」
お決まりのポーズで見送んな!んなのされなくったって頑張るっつーの!!
チッ、空ちゃんもう見えねェし。どんだけ足はえ――んだよ。おめェただのメンテ担当だろーがァ。
「クソッ」
期限はまだだが、この際もっぺん言ってやんよォ。
「オレの気持ちってヤツをよォ!!」
だから待ってろ、空ちゃん。今行くからなァ!!