Chasing! ブック

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昨日、未緒ちゃんと話した通り、靖友の気持ちをしっかり受け止めようと決めた後から気付いた事がある。

基本靖友は私には特別優しい。他の女の子と話をする時はどこか面倒くさそうにしていて、笑顔もへったくれもない。

それに加えて私と話す時はいつもの近寄りがたい睨みもなく、吊り上がった眉毛ですら少し和らぐ事を知った。

そこでようやく周りが付き合ってるかどうか聞いてくる気持ちも理解できた。

知ろうと思った瞬間から見える靖友の私に対する想い。私は靖友の気持ちを受け止める事が出来るのだろうか…。


学校に向かう途中、そんな事を考えながら歩いていたからか。突如腕を引かれ驚いた私は踏ん張る事ができずそのまま後ろに身体が傾いた。

けれど何かに背中をぶつけ転ぶのを免れた、と同時に目の前を一台の車が猛スピードで通り過ぎた。

「ひッ!?」

先程よりもさらに驚いた私が情けなく悲鳴を上げた瞬間、

「っぶねェ!!ちゃんと止まれヨ、このバァカチャンがッ!!」

降って来た怒号に勢いよく顔を上げれば靖友が居た。そこで曲がり角で止まらず歩こうとしていた事に気付く。もし靖友が腕を引いてくれなかったら最悪あの車に轢かれていたかもしれない。






「聞いてんのか!?」

「あ、りがと…」

「ッたく……!!」

気の抜けた声しか出せなかったけど、靖友はそれで判ってくれたのか、「マジでビビったァ…」と言いながらしゃがみ込んでしまった。

靖友に合わせて私もしゃがんでみれば靖友の呼吸は荒く、うっすら汗も滲んでいた。

わざわざ走って来てくれたんだ…。

靖友の優しさに心がぽわんと温かくなる。

「靖友…、走ってきてくれてありがとね」

「るっせ。大した事ねーヨ。……オラ、行くぞ」

「え、あ…うん」

いきなり立ち上がったと思えば手を掴まれ立たされる。そしてそのまま歩き出した靖友に引っ張られながら学校へと向かった。

校門に近づくにつれ、ちらほら生徒が増えてきた。…靖友は手を握り続けている事に気付いているのだろうか。

今私からは靖友の背中しか見えない。だから靖友がどんな顔してんのかわからないけど、とりあえず恥ずかしいから手を離して欲しい。

そんな意味を込めて立ち止まれば手を引っ張る形になり靖友も止まった。そして振り返った靖友の顔は物凄く不満そうな表情をしていた。

「……何で止まんの」

「何でって、…そろそろ恥ずかしい、からかな?」

握られた手を上下に揺さぶれば、パッと手を離された。はて、と見上げれば心なしか顔の赤い靖友を見て疑問が浮かぶ。…もしかしてコイツ無意識だったとか?

未だそわそわしながら手の在り所を探している靖友に、

「靖友、あんたまさか」

無意識?って聞きたかったんだけど、

「っせェッ!ンな事ねーよ!」

私の言う事がわかった靖友はさらに顔を赤くして被せるように突っ込んできた。これにはさすがの私も笑いが込み上げる。

「ふはっ!まだ何も言ってないよ?」

「〜〜〜〜ッ!!」

「ははっ、さすが靖友。私の言いたい事わかってるーーー!」

「バ、バァカ!!そんなんじゃねーヨ!」

支離滅裂な悪口しか出ない靖友だけど、なんだか靖友らしくってとうとう声を上げて笑ってしまった。これが未緒ちゃんの言うツンデレか。

そうだ、これが私達なんだ。言い合いしながら笑って、じゃれ合って。

靖友の隣は気を遣わないから落ち着くんだ。

薄い薄いと茶化していた靖友の胸が思いの外広くて頼り甲斐があるとか、案外心配性だとか、靖友が気持ちを伝えてくれなかったら気付かなかった事ばかり。

今まで如何に自分が靖友を男として認識していなかったのかがよくわかる。その辺は靖友に悪い気もするが、そんな私を好きだと言ってくれた靖友だ。重々承知してくれている筈。

だから私はちゃんと靖友を見なきゃいけない。

この靖友を見ていて心がぽわんとする感じとか、激しい動悸だとか。全部どういう意味なのかしっかり考えよう。

「ねぇ、靖友」

「んだよ」

「私、ちゃんと靖友の事見てるから。あんたが意外と乙女な所とか」

「ッ…、乙女じゃねーヨ!!」

「よしよし」

相変わらず照れ屋な靖友の口は悪いけど、頭を優しく二回叩けば大人しくなる。昔から何でこれしたら黙るんだろうと思っていたけど、

野獣も私には心開いているって証拠なんだね。


(寿一、朝っぱらからアイツら通学路で何やってんだろうな)

(いつもの事だ新開。気にするな)


※一週間宣言二日目。新井空のピンチを救った荒北靖友にさらなるポイントが加算され、事実上この日も新井空の負けかと思われたが、彼女の頭なでなでに荒北靖友が戦意喪失。

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