Chasing! ブック
□04
1ページ/1ページ
靖友に衝撃告白をされた後、一緒に寮まで帰って来たのだが、お互い寮というのを今日程呪った事はない。
しかも帰り際、「明日から覚悟しといてネ」なんて耳元で囁く靖友なんて、そんなスマートな事をサラッとやる靖友なんて私は知らない。
三年という月日は今まで意味がなかったのかというくらい、今夜の靖友は私の知ってるアイツとはかけ離れていた。
今日見たのはずっと私に隠していた靖友の本性だという事実に気付かされ、身体も心もクタクタだ。
…今日は寝よう。うん、寝るしかこのモヤモヤは晴れない。
なのに目を閉じればキスしようと近づく靖友の顔が浮かび、恥ずかしさに何度も枕に顔を叩きつけた。
翌朝、眠りの浅かった私を起こしたのは携帯のメールの着信音。時計を見ればまだ六時。誰だこんな時間に、と睡眠不足で痛い頭を抱えて開けば、
『昨日メンテできなかったから授業始まる前に見てくんね?』
……言わずもがな靖友からだ。
そこで昨夜の出来事がフラッシュバックした私の脳は羞恥心で活発化し、自ずと身体もベッドの上でのたうちまわる。
だけど自転車のメンテをスルーする訳にも行かず、それとこれとは話しが別!と自身に思い込ませて『了解』とだけ返信した。
授業開始十五分前。他の部員は片付けに追われている中、私は部室の前で約束通り靖友の自転車メンテをしている。靖友も着替えが終わったのか私の隣に座り込んだ。
「悪ィな急に。っておめェ…顔酷い事になってンぞ…」
薄っすらと目の下に隈があるわ、肌もボロボロだわ、最悪の顔を靖友はたいそう可哀想な子を見るように私を指差した。
「うるさい!誰のせいでこんなんなってると…」
「ア?俺のおかげの間違いだろ」
「なんでそんなポジティブ!」
「そんなこたァいいからとりあえず見てヨ」
扱いは前と変わんないのか。好きとか言っときながら。まぁその方が私も有難いんだけど…
昨夜から続くモヤモヤを追いやりつつ靖友の自転車を見る。やっぱ無理な走りをする分タイヤの減りも早いな。
ほんとどんな走りをしたらここまで自転車を追い込めるのやら。気が付けば顔や身体に擦り傷作ってくるし、子供が外で遊んで帰って来たみたいで……
「なー!なんか部品変えるトコあったァ?」
「うへぁ!……い、いきなり話しかけないでよ」
「いや、さっきからずーっと話しかけてたんだけどォ?本当空ちゃん、チャリの事になると周り見えねェよな」
そう言って目を細めて楽しそうに笑う靖友。あ、こういう靖友の顔好きだな……って、んん!?
ちょっと待て!宣言初日で落ちるのか!?そんな惚れっぽくないだろ私!
余程挙動不振だったのか、靖友に「頭ダイジョーブ?」って聞かれて正気には戻ったが、今のはただ靖友の気持ちを知って流されただけ。
……くそ、始まって早々、心臓が持ちそうにありません。
メンテが終わって靖友は部室に置いてる鞄を取りに行くとの事だったので、私は逃げるようにダッシュで教室へ向かった。
どうせ教室で会うじゃんと言われれば終わりだが、これは私のメンタルを守る為だ。
席に着いてすぐ机に身体を預けて項垂れた。寝不足に追い打ちをかけるような靖友の行動。いや、さっきのアイツは別に何をした訳でもない。というかいつも通りなのだ。
あんな宣言したと思えば普通に接してくる靖友に、構えていた私が馬鹿みたい。
うだうだ悩んでいると、肩を叩かれたので体制を起こせば、仲良しの未緒ちゃんだった。
「空〜、朝から元気ないじゃん。しかも顔酷い。寝不足?」
「未緒ちゃ〜ん!」
突如現れた癒しに感極まり正面から抱き着いた。
「え、空!?」
「うわーーん!未緒ちゃんヘルプミーだよぉう!!」
結局私が喚き倒していたせいで、気が付けば本題に入る前に靖友が教室にやってきてしまった。そして先生が来ると未緒ちゃんはさっさと私を放って自分の席へと行ってしまった。
とりあえず次の休み時間は未緒ちゃんを拉致るとして、そこでモテ女子である未緒ちゃんに靖友対策をご教授願おう。