Chasing! ブック

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「店長――、只今戻りましたぁ――!」

「おう、お疲れさん。今日はどうだった?」

「大量ですよ〜、新入部員入って来たから特に!それにメンテナンスの仕方とか一から教えなきゃいけない子もいるからてんてこまいで…。

あ、でも此処の宣伝はしておきましたので」

「相変わらず抜かりねぇな」

「当たり前じゃないですか!私のお給料アップの為ですもん」

「そして相変わらずの守銭奴っぷりだな」

「心外な。貯めるのは好きでもケチではないですよ?私」

部活が終わってそのままの足でアルバイト先に顔を出せば店長が出迎えてくれた。

店長も箱学自転車競技部のOBで、歳は私よりも五つ上。今では実家のこの店を継いで店長に就いていて私を採用してくれた張本人だ。

「今日もアイツ来るのか?」

店長の言うアイツ、というのは靖友の事。部活終わりにいつも此処でメンテしてそのまま自主練に行くのが日課なのだ。

「一応現部長に頼まれてますからね。オーバーワークになりやすいから見てやってくれないかって」

それはまだ私が一年生の時の事。靖友がロードを乗りこなせるようになってきた頃に、練習し過ぎでぶっ倒れた事があった。

初めの頃は気絶する事はよくあったが、部活後の自主連までは管理できないと何故か福富に靖友のお目付け役に任命されてしまったのだ。






「まあインターハイも近いですしね。アイツもああ見えて真面目ですから見ててあげないと」

「……それでお前、いつ付き合うんだ?」

「……誰とですか?」

「アラキタ」

また来たよ。泉田君に次いで店長までもがこの質問。何?流行ってんの?その質問。てか店長の方がタチ悪いし!

「今日後輩にも似たようなの言われたんですけどね。これまた別にそういう仲じゃないんですよ、私達」

「へぇ…。向こうはそう思ってないかもしんないじゃん」

「……靖友が?――――ないない。有り得ない。だってアイツ私の事、女だって思ってないですもん」

「んなのわかんねーじゃん。ずっと一緒に居んだからそうなってるかもしれないぞ?」

……確かに。一年の頃からずっと席も近くて休憩中も行事も何するにも一緒で、部活も一緒になって部活終わりの練習も一緒にして、休日は何かと会うし…ってアレ?

「高校三年間、靖友としか居てない」

「……何お前、今更気づいたの?」

花の女子高生が一人の男と常に行動するって、何。しかも相手は彼氏でもない奴。そりゃあ…、

「高校で告白された事ないのって、靖友のせい?」

「あながち間違ってないと思うけど、観点ズレてるの気づいてるか?」

店長が哀れんだ目線を送って来るが今はどうでもいい。靖友と仲良くなり出してからだよ、男子が話しかけてくれなくなったの!

――――くそ、私の淡い青春時代がまさか身近な奴に侵されていたなんて!


「靖友にステイ宣告しようかな」

そう呟いた瞬間、ガシっと肩を掴まれた。驚いて振り返れば話題の主役が物凄い形相で立っていた。






「や、すとも、来てたんだ」

「空ちゃんよォ。ステイって何」

私の言葉に返答はなく、ぶっきら棒に言われた言葉にギクリと肩を揺らしてしまった。いつから聞いてやがったコイツ!てか店長靖友来たなら言ってよ!

興奮しすぎてドアに付けられたベルの音すら聞こえていなかっただなんて…不覚!!

「いや、ステイってのは待てって意味で」

「ンなこたー知ってる。実家にアキチャン居んの知ってんだろーが」

「で、ですよね〜」

靖友も実家で犬飼ってんなら意味くらい知ってるて当たり前。

だからって彼氏が欲しいからちょっと私から離れろなんて、いう意味だなんて言える訳がない。というか別に今欲しい訳じゃないんだけど…。

冗談も口にすればこんな深刻な状況に陥るんだと、これは人生の反省として…って、ああダメだ。靖友めっちゃ怒ってる。

「す、ステイっていうのは冗談で…」

「ア゛ァ!?」

ヤバイ、ヤンキー荒北靖友様が降臨してしまった!振り返り店長に助けを求めようと視線を送れば、笑顔でシッシッと手で追い返すような動作をされた。

まあ店の中だし店長に迷惑は掛けれないよね。仕方ない…。覚悟を決めろ私!


「靖友く――ん、店の中だからとりあえず出ようか?…店長、お騒がせしました!また明日!」

「あいよ。頑張れよ――」

「ちょ、引っ張んな!」

ぐいぐいと靖友の手を引いて店を出た。店長は絶対面白がってるだろうから、明日はなんか慰謝料として奢ってもらおう。



(んとに世話の焼ける奴ら。こんな問題がない限りちゃんと話しやがんねーんだもんな)

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