astragalus2

□不喜処トリオと桃太郎
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「あ!蓮華さんだ!」

可愛らしい声に振り向けばモコモコの尻尾をぶんぶん振りながらこちらへ駆けて来るシロちゃんが居た。

「シロ君!」

しゃがんで彼を腕の中へ迎え入れると嬉しそうに頬に擦り寄るシロ君に頬が自ずと緩む。

「今日はどうしたの?」

「今日はお休みだから柿助とルリ男と散歩中なんだっ!」

振り返るシロ君の目線の先には柿助君とルリ男君も居た。一人走り出しシロ君に置いてけぼりにされた二匹もようやく合流できたようだ。

「こんにちは!蓮華さん!」

「こんにちは。すみませんお仕事中に」

「いいのいいの!私も今日は自主的に出勤してるだけだから気にしないで?」

シロ君を抱きながら空いた手で柿助君とルリ男君の頭を撫でた。二匹とも照れた反応が可愛らし過ぎて私もにやけてしまう。






「今日鬼灯様は?」

「ごめんね、鬼灯さんは今焦熱地獄に視察中なんだ」

「ううん!今日は蓮華さんに会いに来たんだよ!」

「私に?」

柿助君とルリ男君に問うように視線を送れば頷く二匹にキュンとした。

なんてことだろうか。いつもは鬼灯さんの周りに集まるもふもふさん達が今日は私に用があると言う。嬉しすぎて蕩けそうだ。

「今日はね!蓮華さんに桃太郎紹介しようと思って来たんだよ!」

「ももたろうって……あ!おとぎ話の?」

「あ、そっか!蓮華さん外国から来たから知らないんだ!」

「桃太郎は実在しますよ」

日本現世調査の際にある程度の日本の文化を学んでいた私がようやく弾き出した答え。そんな私にルリ男君が教えてくれた。

「え!本当に!?そんな有名人に私が会いに行ってもいいの?」

「もちろん!だって俺達桃太郎と鬼退治に行った仲だもん!」

私の腕からピョンと飛び降りたシロ君は柿助君とルリ男君の間に入れば三匹は可愛らしく決めポーズ。

「てことは犬、猿、雉って君達の事だったんだね。みんな凄いね!」

鬼灯さんも意地が悪いよね。初見で言ってくれればいいものを…。

そんな鬼灯さんに対する不満を心の中で漏らしていると、くいくいと袖を引っ張られた。視線を落とせばみんながわたしの袖を咥えたり掴んだりする光景があった。

抱き締めたい衝動を押し殺しつつも行こうか!と言えば嬉しそうに頷く三匹。

鬼灯さんが彼等に優しい理由がわかるよ。ほんと。








桃太郎さんは天国にいるそうで、みんなに案内されながら初めて来る天国の風景に感嘆の息を零した。地獄とは真反対の清々しい風景は、人気観光地になるのも頷ける。

「ここだよ!」

シロ君が頭を被り見上げるそこは

「極楽満月……?」

はて、どこかで聞いたような。

私が記憶を辿っている間にみんなが中に居るであろう桃太郎さんの名前を呼んでいた。するとガチャリとノブを回す音がし、それで我に返った私が背筋を正した時、

「お前ら来てくれたのか〜?」

にこやかに出てきた男性こそが桃太郎さんなのだろう。三匹は嬉しそうに彼の足元に集まった。

「あ、こちらの方は?」

しゃがんで三匹に相手していた桃太郎さんが私に気付き三匹に聞く。

挨拶しようと思った瞬間、シロ君が「蓮華さんだよ!鬼灯様のお嫁さんっ」と代わりに紹介してくれたのだが、

「えぇえええっ!鬼灯様のっ!?」

立ち上がり驚愕する桃太郎さんに思わず苦笑い。もしかしなくても鬼灯さんと何かとお付き合いがあるのだろう事がわかった私は、予め地獄で買ってきた茶菓子の袋を差し出した。

「いつも主人がお世話になっております。あのこれ桃太郎さんにお会いできると聞いたのでお土産を…」

「ああいえ!こちらこそお世話にッ!?な、何すんですかッ!!」

桃太郎さんに紙袋を渡そうとした瞬間、桃太郎さんを押し退けて目の前に立つ男に目を丸くした。

「え、白澤さん!?」

「蓮華ちゃん久しぶり〜!ようやく会いに来てくれたんだねぇ」

袋を掴み桃太郎さんに渡した後、私の両手を自分の両手で包む白澤さんに再度苦笑いする事になった。

白澤さんによって押しのけられた桃太郎さんは私達を見て「お知り合いだったんですか?」と首を傾げる。






「知り合いも何も、深〜い仲だよね。蓮華ちゃん」

「いいえ、断じてそんな深い仲ではないですよ?ただ少しお世話になった事があって」

白澤さんに握られた手をやんわりと解き、桃太郎さんも誤解を解く。

「今日は桃太郎さんに会いに来たんですよ。この子達にお誘い頂いて、ね?」

振り返り三匹を見れば嬉しそうに「ね!」とシロ君が同意する。

「とりあえず中入んなよ〜。桃タロー君、お茶お願いね」

「あ、はい」

至極ご機嫌な白澤さんは私の腰に手を添えて中に入るのをエスコートしてくれるが、こんな所を鬼灯さんに見られたら白澤さんが危ないのによくやるよね、なんて考えつつも中へと入る。

椅子に座るよう促された私達だが、桃太郎さんキッチンでお茶の支度する足元にシロ君達は集まって楽しそうに桃太郎さんと話している。

そして私はというと、

「……白澤さん…、何してるんですか?」

「ん〜?蓮華ちゃん見てるだけだよ?」

向かいに座る白澤さんが頬杖つきながら笑顔で私を見つめている。

「いや…、それはわかってますが…」

なんと言うか落ち着かない。

「あ、もしかして照れてる?」

「素っ頓狂な事言わないでください」

「ええ〜、つれないなぁ」

「駄目ですよ白澤様。蓮華さんは鬼灯様の奥様なんですから」

桃太郎さんがお盆にお茶を乗せてこちらへ来てくれた事でようやく視線から解放された。




「どうぞ」と言ってお茶を置いてくれた桃太郎さんに色んな意味を込めて「ありがとうございます」とお礼を伝えた。そんな私に気付いてくれたのか、

「蓮華さんも大変ですよね」

なんて苦笑いする桃太郎さん。この人は此処で唯一普通の人だと確信した。

それからはみんなで私が買って来たお茶菓子を食べながら、私が日本へ来た理由や鬼灯さんとの馴れ初めや、桃太郎さんの鬼退治の時の話で盛り上がり、気が付けば夕方になってしまっていた。


「そろそろお暇しましょうか」

シロ君達に言えば「はーい!」と元気よく返事する中、

「え〜!蓮華ちゃんもう帰っちゃうのぉ?」

白澤さんだけはお気に召さないようで、机に項垂れた。

「いい大人が甘えた声出さないでくださいよ」

「……桃タロー君酷い」

「桃太郎さんも大変そうですよね」

「そうなんですよね。基本良い方なんですが、色々難もありまして…」

「桃タロー君、僕此処にいるんだけど」

「あ、良かったら番号交換しませんか?」

「あれ?蓮華ちゃんも無視?」

「薬関係の事とか私も興味があるのでたまに連絡してもいいですか?」

「もちろんいいですよ」

二人で白澤さんを居ない者として話していると袖を引っ張られた。シロ君達かなと見下ろせば大きな子供がそこにいた。






「白澤さん、あんた何してんですか」

桃太郎さんが言うのも無理もなく、完璧に拗ねてしまったのか机に伏せた白澤さんが私の服を摘まんでいたのだ。

注意しても離さない白澤さんにもう一度注意しようとした桃太郎さんを手で制し、白澤さんの背中をトントンと軽く叩いた。

「白澤さん」

「…………」

読んでも口を尖らせそっぽ向く白澤さんに、ああこの表情は…と思い当たる人物の似た表情を思い出して苦笑いする。

まあでもあの人と違い、白澤さんは気持ちをストレートに伝えてくる分マシかもしれない。

背中に添えた手はそのまま机に伏せる白澤さんと同じ目線になるようしゃがみ込み、

「…白澤さん無視してすみません。また遊びに来てもいいですか?今度は白澤さんに会いに来ますから機嫌直してくれませんか?」

幼子をあやすように囁きかければ、ガバリと体を起こした白澤さんは今まで拗ねていたのが嘘のように満面の笑みに。

実は白澤さんの顔が鬼灯さんの面影に重なって慰めずにはいられなくなってまった、なんて事実は白澤さんには内緒だけど…

それに白澤さんにはこの前お世話になったのがあるしね。

嬉しそうに「じゃあいつ来る?」なんて早速次回の日程を決めようとする白澤さん。

「まぁもちろん鬼灯さんの許可が貰えてからですけどね」

「絶対無理じゃん!それっ!」

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