ディバゲ

□悪戯
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何の変哲も無い筈だったある日。
ギンジはいつものように一人仕事に励んでいた。山の様に積まれた書類。彼に課せられた仕事の量は容易く終わる様なものではなかった。
一枚、また一枚と手を止める事なく書類を手にしては目に通す。
作業と化した仕事はそろそろ慣れた頃合い。特に気を張り詰めている訳でもなく、かといってゆったりとすることも出来ずにいた。
すると、手にしようとした紙切れがすっと何者かによって盗られる。
「おい……って、お前は……!」
紙を興味津々に見つめている幼い顔。ギンジにとっては忘れられない顔がなんの前触れもなく、ヘルヴォルが呑気にギンジの前に現れていた。
「へぇー、大変そうだね」
「なんでお前がここに……!というか、返せよ!!」
気が動転しているのか、怒鳴り散らしながらも奪おうとするが、軽い足取りで避けられる。手は空気を掴むばかりで手応えはおろか擦りもしない。
しまいには机から身を乗り出し、山積みになっていた書類を蹴散らしてしまった。
「あーぁ、大事そうな書類だけど大丈夫なの?」
「はぁ!?……あっ」
やっと散らかした書類に気づくと慌てて集める。
見事にペースが狂わされているギンジに世界評議会最高幹部としての厳格さはまるでみえなかった。
手付きはさっきまでの落ち着きを忘れ、乱暴で乱雑だ。
「そんなやり方だと紙がぐしゃぐしゃになっちゃうよ?」
ヘルヴォルはいつの間にか集めていた書類の一部をギンジに渡す。あんなに渡そうとしなかったのは何だったんだと一瞬目が合うと、すぐさまに逸らし、乱雑に受け取る。


「……で、何の用だよ」
机に座り鼻歌を歌いながらも足をぶらぶらと揺するヘルヴォルにもうギンジは気にしない事にした。
その後も何度捕まえようとしてもすばしっこく、捕らえることが出来ずに、疲れ果ててしまったのだ。
もう書類には触るなよと戒めるものの何をするか分からないヘルヴォルに気が散ってしまう。
これじゃあ、仕事がちっとも進まないのに、無駄な時間を過ごしてしまうだけだと早く帰って欲しいと内心願っていた。
「暇だったから遊びに来ただけー」
「暇だったからって……」
「いいじゃんー、だってスフィアとかも居るんでしょ?なら、ボクだって居ても可笑しくないよね?」
「まぁ、そうかもしれねーけれどよ……」
でしょ?と楽し気にギンジの目を捕らえる大きな瞳はスフィアとは別なものに感じる。同じ神でもこうも違うものなのか。静か過ぎて気が重くなる沈黙とは反面、自由気ままな雰囲気に敵であった事も憎むべき事も掻き消されそうだ。
「これやるからさっさと帰れ」
少し大きめの袋をヘルヴォルに放り投げる。いきなり投げたのにも関わらず、動揺せずに受け取る。
「何これ、お菓子?」
やはり神とは言えど子供なのか嬉しそうに聞いてくる。これならイケるとギンジは確信した。
「あぁ、銀杏だ」
「え、僕銀杏嫌いー」
「あぁ!?銀杏嫌いとかありえねーだろ!?」
えーと言いつつも袋を返さないのは気になっているからだろうか。まじまじとパッケージを見つめていた。大人しくなったのを良い事に再び資料に目をやる。
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