ディバゲ

□逃避
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暇だ。ヘルヴォルは常界で購入した漫画や本を読み切り、退屈になっていた。常界の本屋は既に灯りを消している。


どうしたものかと思った先、闇神の神殿に向かっていた。ふと見かけたもう一つの神殿に向かう影。見たことのない顔と見たことのないドライバ。不審に思っていると、視線がぶつかる。目を据えていたヘルヴォルは思わず焦る。それに気がついたのか中性的な顔が卑しめる様に歪むとヘルヴォルは黙っていられなかった。
「ねぇ、君。見ない顔だけど一体どこの人かな?」
酷くプライドを傷つけられたヘルヴォルは、今にも振り下ろしてしまいそうなドライバに作り笑顔で誤魔化す。
「君こそここの人じゃないんじゃない?あ、人っていうか神かな。僕はファズ。で、君はここに何しに来たの?」
「ここにいる闇神に会いに行くだけだよ。まぁ、確かに僕はここの神じゃないけど……」
「けど?あ、てか、僕こそその子に会いに行くんだよね。出来れば、君は大した用じゃなければ帰ってくれないかな?」
遠回しに邪魔だと言われたヘルヴォルはドライバに手を掛ける。相手はスルトやシグルスよりも断然小さいというのに態度が大きいのに腹立たしくて仕方なかった。そもそも知らない内にヘグニがこんな奴と会っていたことから我儘だけれども、気に食わなかったのだ。


「二人してなんでここに突っ立っているのよ……」
忽然と現れたヘグニに二人は一瞬目を見開くも、ファズは直ぐに何事も無かった様に振る舞う。
「あ、ヘグニ。彼が……あっ」
自分でも分からなくなるほどの感情が積み重なった後に出た答えが、この場から逃げ出すだった。情けないとも思った。けれども、それより悔しさや知らなかった事から仲間外れにされていた気がして寂しさの方が上回りとにかく誰も居ない所に逃げたしたくなった。


結局、帰ってきた神殿で一人感傷に浸っていた。なんて僕らしくない。こんなに感情に揺さぶられていたのが酷く悔しい。どうせあんな奴より僕の方がずっと子供だ。これがきっとスルトとかシグルスならまだしも、あんな僕と対して変わらない奴に……。確かに僕とヘグニは干渉対象も違う。住んでいる所も違う。そういえば、なんでよくあの六人で集まっていたのか。思い返せば返す程、疑問点だらけでヘルヴォルの頭はパニック寸前にあった。

「珍しいわね。あんたがそんなに感情的になっているの」
背後から不意に声を掛けられると、肩を跳ねつつも慌ててフードを被り顔を隠す。
「そ、そんなの君には関係ないじゃないか」
「本当、あんたどうしたのよ」
隣に座られると意地でも顔を隠していたいヘルヴォルを顔を逸らす。ヘグニはそんなヘルヴォルが不思議でたまらなかった。
「別に……。」
黙り込むヘルヴォルにヘグニもそれ以上問い詰めることなく、沈黙だけが二人に重くのしかかる。ヘグニの溜息が沈黙を重く割る。

「まぁ、あんたにもそんな時があるのね。あんまりめそめそしているんじゃないわよ」
「わっ」
フードを掴み、無理矢理顔を向かせると、頬に軽く口付ける。ヘグニは満足気に立ち上がると、じゃあ、と残すだけでそのまま帰ってしまう。ヘルヴォルは唖然として言葉も出なかった。ただ頬を撫でては、硬直していた。自分でもどんな顔をしていたのかは分からない。けれど、こんなの僕らしくないと思うだけであった。

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