ディバゲ

□変化
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初恋は女の子。笑顔がとても似合うかわいい妖精だった。四六時中誰かと常に笑っていて、誰とでも仲良くし、囲まれていた子だった。
その頃のあたしはかわいいものがとにかく好きで、かわいいものには目が無かった。女の子みたいなお洒落をするのが堪らなく好きで、始めはヘアアクセ程度だったものの気がつけばネイルやリップにまで挑戦していた。今思えば、物心ついた時には、すでに誰も居なかったあたしに止める声があったのならば変わっていたのかもしれない。

そして、小心だった頃のあたしは散々悩んで、ついに少ない勇気を振り絞って好きと口にした。

『気持ち悪い』

そう言われた事は鮮明に今でも覚えていた。その直後の事はちっとも覚えてないのに。
ずっと放心状態だったのかもしれない。おそらく上の空でしばらく生きていた。心に本当に穴でも空いていたと思う。

その日から人の目が怖くなった。神界で友人が作れなかったあたしは時折寂しくなって常界に下りたものの、街を歩くのが酷く辛くなった。ただの世間話かもしれないのに、同じ歳くらいの子から大人まで皆あたしの悪口を言っている様に聞こえた。兄弟も親の顔も知らないあたしにはもう誰を信じていいか分からなかった。

外に出るのが怖くなって神殿に籠る毎日。特に誰とも会わず、話さずに居る日々は酷く色褪せて見える。楽しみと言ったら通販ぐらいで、頻繁に頼んでいた。しかしその宅配の人にも会うのが嫌でいつも荷物だけを置いてもらう始末だった。


そんなある日、いつものように置かれた荷物を開けると、出て来たのは大量のトマトケチャップ。もちろんあたしが注文する訳も無く、直ぐに違う人の物だと気づいた。
宛先はスルト。初めはまた宅配の人を呼んで届け直してもらおうかと思った。けれど、然程ここから遠くもない上に、行ったことのない土地だと気づくと、散歩がてらに届けに行くことにした。


辿り着いたのは神殿、所々の装飾は違うものの殆どあたしのと似ていた。興味本位で来てみたものの、やはり勇気は無く、入り口付近にこっそり置く。さっさと帰ってしまおうと振り返ろうとした瞬間、入り口の柱から一人の少年が覗いていたのが見えた。


「あれ、いつもの宅配の人じゃないよー?」
まるで誰かを呼んでいるのか分からないが、誰も居ない所へ向いている。この子がスルトとか言うのだろうか。目が合うとにこにこと無邪気に笑う。
これは逃げた方がいいのかと思い後ずさる。
「スルト来ないなー。ねぇねぇ、お兄さんは誰?」
いつの間にか詰め寄っていた少年に足がすくむ。
「だ、誰って……」
「あ、もしかして水の所のシグルズとかっていう人?」
「……なんであたしの名前知っているのよ」
久しぶりに話す人、違うかもしれない。なんとなく、なんとなくだけれども、あたしと同じ気がする。


少年があっと声を漏らすと、少ししてもう一人。少年とは身長より1回り、2回り大きな青年が顔を覗かせた。
「なんだ」
「凄いよ!噂でしか聞いたことなかったけれど、あの水神だよ!」
少年の目新しい物を見るような視線に思わず逃げてしまいたくなる。しかし、青年は表情をぴくりとも変えなかった。
「そうか」
「で、お兄さんは何しに来たの?」
「何しにって……宅配、間違ってあたしの所に届いていたからちゃんと渡しに来ただけよ」
少年の目を見ていられなくなり、視線を逸らす。きっと悪く思われているのだろう。またどうせ何か言われるかもしれない。そんな良くない方ばかりに考えが行く。

「へー、それは大変だったね」
少年が何か合図を送る様に青年を見上げる。
「じゃあ、これであたしは……」
「お前も食べるか?」
「え?」
さっさとここから去ろうとするあたしを立ち止める一言。箱を抱えると、神殿の奥を指差す。
「これからオムライスパーティをやるつもりだったんだけれど、皆来なくて困っていたんだよね」
少年に後ろからグイグイ押される。突然の状況に頭は追いつかなかった。
「あたしでいいの?」
「何か問題でもあるのか?」
表情を変えず真顔のまま聞き返させると、何も言い返せなかった。そのまま、あたしは大量のトマトケチャップでできたオムライスに悲鳴を上げたのは今覚えばいい思い出なのかもしれない。
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