ディバゲ

□月夜
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ボスからの告白を受け、一週間。初めはボスのためと意気込んでいた奴も覚悟を決めた奴もいざ目前になると、彼らの意志も揺らいでいるように見えた。しかし、その時は刻々と迫って来ていた。



聖銃士の中でも若いブルーノもその一人で、複雑な心境に眉を顰めていた。重ねて来た経験は他の聖銃士よりも少ない。知っている感情も少なく言葉にも出来ないこの心境はひたすらに彼の心を曇らせる。まだ世の中の無情さすら然程多く体験した事がなかったのだ。
ただ窓に映る月を反射している静寂な廊下に暗さが増しても、眠気からは程遠かった。寝間着も落ち着かず、ゆったりするには重苦しいコートを揺らしていた。しかし、このコートを見ているだけで現実に向き合わされているのも事実だ。いつもよりコートが思い気がしてならなかった。
特に行く宛もなく、長い廊下を何と無く歩く。
ガレスに今日は大人しく部屋で休むよう言われただけに決まりを破る罪悪感を多少感じるが気の所為だとする事にした。
静寂に包まれている今この場所でならこの思いですら丸ごと包まれて落ち着ける、そんな気がした。立ち止まってしまえば足音までも静かへと変わる。思わず目を閉じて呼吸までも止めてようかと試みた。

「ブルーノか?」
突然の静かさを割る声に肩が跳ねる。
恐る恐る振り返ってみると、そこには自分より20、30、いやそれより高めのいつもの重いコートではなく軽めの黒シャツ一枚のみのボス、アーサーが立っていた。
「ぼ、ボス……」
元々人に会いたくない、そう思っていたのに。ましてやボスに会うなんて。
驚きと焦りに次の言葉が喉元で詰まる。
一人あたふたしているブルーノにアーサーは不思議そうな顔をしていた。
「珍しいな、お前がガレスの言いつけを破るなんて。今日は部屋に居ろと言われた筈だろ?」
「あ、いや、これは……」
本人の目の前で今の心境を語れるもんかとブルーノは心の中で思った。言った所で解決する筈などないのだから。寧ろ、困らせるだけだろう。


「まぁ、いいだろう。こういう時もある。それに、今夜は月が綺麗だからな」
アーサーが窓の外に視線をずらすのに釣られてブルーノも見上げる。
確かに欠けが一つもない丸い月はいつもより輝いている気がした。
そんな月の光に圧倒されて今すぐにでも飲み込まれてしまいそうだ。もし溺れてしまったのならば、もしもこれが全て長い夢だったのならば。
そう願うと同時に、夢ならば今をただ真っ直ぐに進みたいとも決意する。
「俺の部屋からは見れないからな。他の奴らも見に来ればいいのに。」
ガウェインも寝てしまったからなと付け足す。
月の光を見つめていると段々その光に吸い込まれそうだった。まるでボスのように真っ直ぐな光。
「月、綺麗ですね。」
「だろ?お前も早く寝ろよ。」
自分より一回り大きな手を頭にのせられると、髪をくしゃくしゃにするように少し乱暴に撫でられる。
気が済んだのか手を離すとそそくさに歩き始めた。


大きな背中、手の感触、雰囲気に他にも心当たる人がいた。きっと俺はその人とボスを重ね合わせていたのだろう。
きっとその人は俺にとってとても大事でかけがえのない存在。

皆でクリスマスをもう一回過ごせたらな。ブルーノは月にその想いを密かに託した。


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ずっと前から温めてあったブルーノと聖王のお話です……!
時期は文明竜戦の数日前?くらいをイメージしています。
やっとのこと円卓も載せられて良かったです。

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