その他
□ティータイム・ラビリンス
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「あちゃー。燭ちゃん、寝ちゃったな」
「潰したんだろ」
「でも平門だって、朔を止めなかったじゃない」
「それを言うなら名前も同罪だ」
「…たしかに」
名前は毛布を持ってくるように羊に頼み、また自分のグラスを煽った。
「男の前で酔いつぶれると、後悔するぞー」
と、朔が冗談を言う。
しかし名前が酒に強くて簡単には潰れないのを知っているし、何より、朔と平門が名前に手を出すこと自体、考えられない。
「三人なら潰れても大丈夫でしょう。
大丈夫な気がしないのはむしろ、平門と二人のときだけど」
「なんなら試してみるか?」
「…遠慮する」
平門の表情はいつも冗談かどうかわからない。
名前は、実質上の上司とそっくりな直属の上司を見やり、こっそりとため息をついた。
眼鏡の向こうの瞳はそっくりだが、時辰の方が含みがないから幾らかマシといえる。
「時辰は元気か?」
考えを読んでか偶然か、朔が訊いてくる。
「相変わらず。でも、一緒に居ても飽きない」
「だろうな」
「っていうかさ。
相変わらず、ってさっきから言ってるけど、当たり前だよね。
会ってないって言っても知れてるもの」
名前の言葉に、朔はたしかにと笑った。
しかし、平門はそうではなかった。
「俺は会うたびに、名前が大人になるのを実感するけどな」
などと言ってのける。
いつもの戯れとして反応しようとした名前だが、なぜかそれができなかった。
ドキリ、胸が鳴るのがわかる。
「……平門、酔ってるの?」
と、ぎこちなく言うのがやっとだった。
朔は少し面白そうにグラスを揺らすだけ。
平門は平然としているから、ちょっと腹が立つが。
「お前こそ、顔、赤いぞ」
なんて言われてしまうと困る。
なんとか酔いのせいにしなくては。
名前は酒の雰囲気に当てられて火照った顔を、プイと逸らせてグラスに口付けた。