その他

□茶葉のストック
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「悪いんだけど」

という言葉のわりには、買い物リストの項目は少なくなかった。

このぶんだと夕飯もごちそうになるんだろうから、その材料がいくつか。

食器用洗剤の詰め替えや、キッチンペーパー。

一番最後の“名前ちゃんが好きなお菓子”という項目には笑みがこぼれる。
お菓子を買う、という気遣いに加えて、名前の好みを知りたい、という優しさの表れだろう。
遠慮せずに、好きなお菓子を2つ、カゴに入れた。

そんなこんなで、ビニール袋はいっぱいになった。

持てない重さではない。
しかし、何度か持ち直しながら名前は帰路についた。

しばらくして、俯いていた自分の影が、大きな影に飲み込まれる。

それに沿って視線を上げると――

「…宗介」

ジャージ姿の、恋人が立っていた。

「おう。おかえり、名前」

「ただいま。宗介も、おかえり」

「ただいま」

久し振りのやりとりがくすぐったくて名前はふふっと笑った。
そんな彼女から、山崎が黙ってビニール袋を取り上げる。
そういう優しさが、名前はすごく好きだ。

「ありがと」

と、ふわり、笑う。

山崎は照れ隠しに目線をそらしつつ、
彼女の笑顔が好きだな、と改めて実感した。

2人の影が、すっと伸びる。

自然と、手を繋ぐ。

「ふふっ、宗介の家のお茶っ葉が切れててよかった」

「なんでだよ」

「だってね、」

名前は背伸びして、山崎の耳に口を寄せた。
それでも届かない分は、彼が屈んでくれた。

――ほら、優しい。

と嬉しく思いながら、
名前は一言、彼の耳に落とすのだった。



――「夕飯の買い物の帰りって、新婚さんみたいじゃない?」
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