東京レイヴンズ
□変わらない、でいてほしい。
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大友が名前を連れていったのは、雑貨屋とか本屋とか服屋とか、
名前が気に入る場所ばかりだった。
名前が、買おうかどうか迷って商品をみていると、
「それ、欲しいんか」
と買ってくれた。
(塾講師より独立官の方が給料がいいのにと軽口もくっついてきたが)
とりあえず、思っていたより普通の“お出かけ”だった。
――ほんと、変なの。
名前は片隅に思っていたが、
結局、夕飯を食べて最初の駅の改札前に戻ってくるまで、大友は何も目立ったことをしなかった。
「今日は楽しかった」
と名前がお礼を述べても、
「さよか」
と笑うだけだ。
名前は、今日の目的は何だったのか訊こうとした。
しかし、――
「今日はな、僕の憂さ晴らしのために呼んだんや」
先に、大友が口を開いた。
いろんな意味で意外だった。
「…こないだ部長や塾長にこきつかわれたさかい、気分転換しよ思てん」
呪捜部の内輪話は名前にまで下りてこないから正確にはわからないが、恐らく“土御門夏目”に関する事件のことだろう。
名前はそこまで考え、やはり自分を呼び出した目的は見失っていた。
「なんで私?」
端的に問うと、大友は少し困った顔をした。
「名前に気晴らしさせたろー思たんはほんまやで。
でも、僕の育て方が裏目に出たんかもしれんな」
彼が言う意味がやっとわかってくる。
名前はなまじ大友を知っていたし、陰陽師として生きているから、考え過ぎてしまっていたらしい。
そして、大友がもう呪捜部所属の十二神将ではなく、一介の塾講師であるのも忘れていたようだ。
「……陣が思わせ振りなことするから」
「はいはい、悪かった。ちょっと癖が抜けきらんだけや」
「そんなことなら、もうちょっと気楽にしたのに」
「悪かったて。まぁ、また誘たるさかい、今日はしまいや」
“また誘たるさかい”
名前がその言葉を反芻していると、大友が改札を指差した。
「誰にも言うてへんのやろ。遅なると色々面倒やで」
「禹歩で帰る」
「……さよか」
名前はステップを踏みながら、大友に視線をやった。
彼の複雑な心境に気付くことはさすがにできない。
彼は塾講師になって、だから付き合い方も変わったらしいが、名前への気遣いや扱いはそのまま。
久しぶりに会ったことでわかったことを飲み込みながら、名前は自室へ向かった。