その他

□素直じゃないところもかわいい
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「ご一緒していいですか」

「ああ、名前さん。いいですよ。
人見知りの貴方が食堂でご飯とは珍しい」

鬼灯の言葉に苦笑しながら、名前は席についた。

閻魔大王の補佐官という地位についている彼女は、鬼灯とは違って専らの裏方専門。
閻魔大王と鬼灯が滞りなく業務を進行できるのは彼女のおかげと言っても過言ではない。
その優秀さから、鬼灯とほぼ同じ時期にこのポストに収まっていた。

パチリ、割り箸を割った名前に、鬼灯が話しかける。

「今度のサタン様の講演会、企画書が上がってきたので後程そちらに回します」

「わかりました」

「あと、衆合地獄でもう少し男手が必要と要望がありました。
獄卒に募集をかけてもいいのですが、そういうのに食いついてくる男性はあそこに向かないでしょうし…」

「そうですね」

「あとで現場を見に行ってから検討します」

「はい」

「あと…」

「…鬼灯くん」

「はい」

鬼灯の話を止めて、名前は唐揚げを咀嚼し、飲み込む。

たっぷり間を空けてから

「最近、お休みいつとったの?」

と、わざとらしくふざけた口調で言った。

鬼灯はびっくりして、彼女をじっと見つめ返す。

「昼休みまで仕事の話。
貴方が自分のテリトリーを守りたいタイプなのも、合理主義なのも、
私が表に出たがらない分やってくださっているのも重々承知だけど」

でも、と名前は寂しそうな顔をして、あとは黙ってしまった。

鬼灯が驚いたのは、彼女の発言内容もそうだが、
何よりも“雄弁に自分の思ったことを話している”のが意外だったからだ。

人見知りで普段無口な名前。

それがこうやって、話している理由は――

「心配してくれているんですか」

鬼灯はわざとらしく、仕返しのように言ってやる。

「…別に!鬼灯くんのためとかじゃ、ない」

案の定、名前は赤面して反論したのち、口ごもった。
鬼灯くんが倒れたら皆困るし、とか何とか言い立てるが、それは全て肯定の意になってしまう。

“心配だから”とも“頼ってくれ”とも素直に言えない。
言っても頼ってくれないこの鬼神様に、いつもこうやって遠回しに言葉を紡ぐ。

しかも鬼灯の方は、

――名前さんに心配してもらえて、こういう表情も見られるなら、サービス残業も悪くないですね。

なんて思っている。
だからこの不毛な会話も日常茶飯事なのだけど。
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