その他
□大福、小福、至福の君。
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鬼灯は、
「何をやってるんです?」
と声をかけながら、庭で金魚草を見ている名前に近付いた。
お互いに閻魔大王の補佐官という地位についているものの、こうして昼休みを共に過ごすのは稀だ。
名前は少し驚いた表情で「鬼灯くん」と彼の名を呼び、自分の手元を見せた。
「お昼ごはん後のおやつ。
現世へ出張に行った獄卒が、お土産に買ってきてくれたから」
「豆大福ですか」
「そう。現世のお菓子は美味しいから好き」
「貴方は、ほんとに食べることが好きですねぇ」
鬼灯は呆れたように言いながら、隣に腰かける。
長い付き合いだが、彼女から“食べる”行為を奪ったらえらいことになるんじゃないか…
と思うほど、名前は食いしん坊だ。
それでいて体型は変わらないから、不思議なものである。
「あ、でも、豆大福は見るのも好き。
なんかこう…ふくっとしてて、見ていて飽きないから」
「はぁ…、もはや食べなくても満足できるほどプロフェッショナルだ、と?」
「え?!そうじゃなくて…うーん…。
食べるのは大きな幸せで、見るのは小さな幸せで…
うーん、何て言ったらいいのかな…」
名前はしばらくうんうん唸っていたが、やがて諦めてしまった。
鬼灯には、彼女の大福に対する感情までは理解できないが、感覚はわかった気がした。
――私は貴方を見ているだけで飽きませんが、そういうことですかね…。
鬼灯は軽く首を捻ると、隣の名前に目をやる。
こうして一緒にいるだけで小さな幸せを感じられるのは、貴方だけです。
と伝えれば、どうなるだろうか。
金魚草がオギャアと啼くまで、そんな不毛な考えに思いを馳せるのだった。