その他
□奈落の底も貴方となら浅い
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「貴方に嫌われる夢をみました」
と言って泣く名前を、鬼灯は黙って慰めている。
夜中に部屋に押し掛けてきてぐずるのはよくあることで、慣れた手つきで背中や髪を撫でてやる。
そうすると、そのうちに安心して眠ってしまうのだ。
彼女にならば、安眠を妨げられるのは構わない。
誰かに虐められて泣くというなら、すぐにでもそいつを殴り飛ばしてやれる。
ただ、泣く理由が悪夢で、しかもその中の自分が理由だと言われれば、どうしようもない。
「鬼灯さま…」
「はい」
「ごめんなさい」
「どうして謝るんです?」
「だって…」
名前はそれ以上言わずに、また涙を流した。
生前、大切な人に裏切られたらしい。
この涙が、何を意味するのか、わかった気がした。
鬼灯はそっと名前の涙を舐めとりながら、髪を撫でる手は止めない。
「貴方を夢では傷つけておきながら、現実では離してやれそうにないんです」
ズルいですね、と自嘲すると、名前は微かに首を横に振る。
お互いに、依存して、束縛して、キスを落とす。
そういう関係に溺れてしまえば、奈落の底など浅いものらしい。