その他
□Baby, I miss you so much
1ページ/2ページ
――ほんとは会いたいけど、会いたいって言えない。
どこかの恋愛小説で読んだフレーズがふと頭によぎる。
名前はフルーツ牛乳をズズッと吸い込みながらケータイを弄っていた。
全寮制の高校で水泳部に所属している恋人・松岡凛からの最後の着信は1か月前。
最後のメールはこちらから送ったものに対する返信で、2週間前。
履歴がどんどん他の人で埋まっていくとともに、名前の生活から凛が薄れていく感じがした。
会いたい。声が聞きたい。
そういう内容のメールを送るのは、名前からすれば大変勇気のいることである。
凛が水泳に懸けていて、部長になってからは色々大変なことを知っているからだ。
そして結局、彼のそんなところが好きだった。
「素直じゃないなぁ」
と、傍で見ていた友人が呆れて言った。
「そんな簡単な話じゃないからっ」
なんて反論しつつ、実は図星かもと思う。
最近よく注意されるような大きなため息をついた。
――そのとき、今まさに弄っているケータイが着信音を鳴らす。
ドクリ、と心臓も鳴った。
「もしもし…り、凛?」
『…おう。今大丈夫か?』
「だ、だいじょう、ぶ!昼休みだしっ」
『なんでそんなにたどたどしいんだよ』
「えっ!?いや、なんでもないっ」
まさか“今あなたのことを考えていました”とも言えず、名前は電話の向こうの声を聞き洩らさないようにケータイを耳におしつける。
『次の日曜日、久々に会えないかと思って』
と、電話の向こうの凛が言った。
話題までタイムリーで、ますます名前の胸が高鳴る。
「え、えと…大丈夫だけど。どうしたの?急に?」
『なんだよ。最近会ってなかったからと思って電話したのに、お前がそんなだと、俺だけだったのかとか思う』
「あっ!違う、違う!」
幾分かむすっとした凛の言葉を慌てて否定しながら、名前は顔がにやけるのを抑えるのに必死だ。
同じことを考えていた。
会いたいと言ってくれて嬉しい。
私だって、会いたい。
言いたい言葉が次々と浮かんできて、あわあわとしていると、凛がぷっと吹き出す気配。
それが引き金となってクスクス笑いあう2人に、友人が「お幸せに」と苦笑した。