その他

□まぶしさを愛する
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「宮地、そろそろ休憩したら」

自主練中の宮地に声をかけたのは、3年生マネージャーの名前だった。

テスト期間なため、他の部員は誰もいない。
名前も本当なら体育館に用事はないのだが、差し入れと称してスポドリとバナナを持って顔をのぞかせている。

そのタイミングは宮地の疲労感的にドンピシャで、

――ほんとコイツ、よくわかってんな。

なんて苦笑しながら、彼女に近づいてドリンクを受け取った。

ふと、

「宮地って背高いよねー」

と、名前が笑った。
バスケ部の中でもそれなりに高い方だとは思うが、何といってもバスケ部である。
すごく当たり前のことだし、今さらにも言えた。

しかし宮地の微妙な表情をよそに、名前はぴょんぴょんと軽くジャンプしながら彼を見上げている。

「宮地と私の身長差って40cmとかだよね?
そんだけ違うとやっぱり、世界が高いんだろーね」

「いや、当たり前だろ」

「んー…そっか。当たり前か」

「お前、ほんと何言ってんだよ。轢くぞ」

宮地の物騒な物言いに、名前は困ったような顔をする。
その視線は宮地の持つバスケットボールへ移り、また彼の眼に戻ってきた。

その物憂げな仕草に、宮地は途方に暮れる。

実は名前は、何事にもストイックで努力家な宮地に追い付きたい一心なのだ。
彼にふさわしい存在(言い方は大袈裟だが)になりたいと、一種の恋心のようなものを抱いている。

「背が高いね」も「当たり前だろ」も、その想いを投影しているようだった。

もちろんそれは宮地の知るところにないし、それでいいと思っている。

だから名前は、宮地の困惑に気づかないふりをして、にこりと笑った。

「…じゃあ私、もう戻るね。宮地もほどほどに」

「お…おう」

出口に向かう彼女が

「…追い付くからね」

と口に含んだ言葉は宮地に届かない。

このままの距離が縮まるのがいつになるかはわからないが、いつか届いたらいい。
そう思いながら名前は体育館の重い扉をあけた。

宮地が彼女の後ろ姿を名残惜しく思いながらボールをドリブルするのも、また、名前は知らないけれど。
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